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親切な旅行者 【30秒で読める怪談】

Aさんのご主人が長年勤めた会社を定年退職した。
これは良い機会、と老後の楽しみに計画していた旅行に夫婦で出かけた。

旅の最中、親切な中年男性と仲良くなった。
写真の撮影役を買って出てくれた事がきっかけだった。
聞けば男性は一人旅との事。

なんと、偶然にも男性の旅程はAさん夫妻とまったく同じだという。
結局、旅行中ずっと一緒に観光地を巡り、行く先々で写真を撮ってくれた。
何度か一緒に写真を撮ろうと誘ったが、恥ずかしいので遠慮すると言う。
そして楽しい旅も最終日。Aさん夫妻は男性に深くお礼を言って別れた。

そして旅行から帰って数日後、ご主人は突然亡くなってしまった。
交通事故だった。
Aさんは葬儀の遺影に使える写真はないかと、先日の旅行写真を確認した。

行く先々の観光スポットで撮ってもらった写真。
そこで奥さんはおかしな事に気が付いた。

どの写真にも、自分達の背後にあの男性が一緒に映っていた。

そんなはずはない。
カメラ持ってシャッターを押したのはその男性自身なのだ。

そして、そのうちの一枚。
男性の口からは人間のものとは思えない長い舌がだらんと垂れさがり、それは地面につきそうなくらいだったという。

「あれはいわゆる死神の類だったのではないか」
今になってAさんは思っているそうだ。






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