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金庫の声 【30秒で読める怪談】

仕事の関係でとあるホテルに宿泊したHさん。
そこで運悪く火災に巻き込まれてしまった。
あの、昭和史に残る大火災というと分かる方が多いかもしれない。

上階からあがった火の手が徐々にHさんのフロアにも近づいてきていた。
廊下ではガードマンに先導され宿泊客らが非常階段へ向かっている。

Hさんも早く逃げなければと廊下を走る。
その時、どこからか「助けてー!」「開けてー!」と、叫び声が。
見ると従業員用の部屋と思われるドアがあり、中に入ってみると什器や備品が所狭しと並ぶ奥に大きな金庫が備え付けてある。
声はどうもその中かららしい。
「開けてー!」「助けてー!」と繰り返す。

Hさんは「炎から逃れようと金庫に入り閉じ込められたのだろう」と思い、金庫を開けようとしたがロックがかかってしまっている。
鉄製の頑丈そうな扉はとても素手では開けられそうにない。

Hさんは廊下に出て助けを求めたが、皆逃げるのに必死。
どうにかできないかとしばらく金庫と格闘していたが、煙が充満してきた。
これはもうだめだ、と思ったHさんは仕方なく非常階段へ走った。

発生からおよそ半日後に火災は鎮火。
無事避難できたHさんは金庫の事を消防隊に話し、部屋の場所も伝えた。

耐火仕様だっただろう金庫は焼け跡からそのままの形で発見された。
扉も閉まったままだった。
「とはいえ、あの炎と煙だ。中の人はきっと生きていないだろう」
とHさんは思った。

消防隊が工具を使って金庫を開けてみたところ、中には現金やら書類やらがぎっしりと詰まっているだけ。
とても人間の入れるような隙間はなかったそうだ。






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