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笹川流れの遊覧船で、おもしろ岩とかもめに出会う。

9月に入り残暑はまだまだ厳しいものの、朝晩の風にどこか切なげな香りを含むようになった。大きくどっかりとしていた雲は、ぼんやりと薄く延びはじめ、確実に秋が近くまで来ている。

私は焦っていた。夏のうちに、どうしてもやりたいことがあるんだ。夏風邪や車の故障のせいで先延ばしになっていたそれは、笹川流れの海で遊覧船に乗ること。

笹川流れは新潟県村上市にある海岸で、その11kmつづく線上には変わった形の大きな岩や、洞穴が点在している。今は明るく透明な日本海も、あと数ヶ月すれば暗く白波の立つ厳しい海へと変わってしまう。遊覧船に乗るなら、海が青いうちにと決めていた。

山形県鶴岡市から海岸線沿に、新潟方面へ向かって車を走らせる。マヒトゥ・ザ・ピーポーの「まだあの海が青かったころ」を選曲して出発すると、関連でわりとにぎやかな曲がかかり続け、記録的猛暑が続いた夏の延長戦にはぴったりだと思った。寂しくなるにはちょっとはやいので、森山直太朗を流さなくてよかったな。

1時間30分ほど走ると、ひときわ澄み切った海が見えてきた。このあたりかなぁと看板を頼りに進むと、そこは小さな漁港で、人に慣れきったかもめが迎えてくれる。

干物はこのあたりの名産品。
波のない静かな海だった。

近頃、かもめを見ても、からすを見ても、かえるを見ても、ぼーっとしている姿がうちの猫にそっくりだなと思ってしまう。彼らの1日はこういう何もしていない時間が多いように見えて、(実際のところはわからないものの)そのぽけぽけした姿に、人間は勝手に癒されています。

受付で1200円のチケットを購入して、いざ遊覧船へ。定員120名の船「おばこ丸」に乗船した。船内は空調が効いていなかったので、真夏に来なくて正解だったかもしれないと思った。陽はすこし傾き、時刻は16時。40分間の船旅がはじまった。

見どころは、自然によってつくられた奇岩や洞穴で、それぞれメガネ岩や、恐竜岩、びょうぶ岩などの形から連想される名前がついている。ほとんどの岩は、「まぁ言われてみれば見えなくもない」という感想だったけれど、雄獅子岩と名付けられた岩だけは解説を聞く前でも「ライオンに似ている」と思えたので、つよく印象に残った。(猫科に目がないだけかもしれない)

おもしろ岩の数々もさることながら、絶壁の質感はものすごく地球という感じで迫力があった。

絶壁の断層はかもめの腹の色に似ていた。
海に反射する光が何よりもきれいだ。
右側が雄獅子岩。左側を向いて遠吠えをあげているよう。
炉のような洞穴。もっと近づいてみたい。

かもめが船のまわりを飛び回っているのは、船内で「かもめの餌」としてかっぱえびせんが売られているからだ。誰かがくれるのを今か今かと目を光らせて低空飛行している。野生動物にスナック菓子をあげるのはあまり良くないのでは…?と思ったけど、間近でかもめを見ることができて子供たちは嬉しそうだった。

かもめはからすのように雑食でなんでも食べるらしいので、その消化力を持ってすれば、かっぱえびせんくらいどうってことないのかもしれない。

がらんとした船内が夏の終わりを告げていた。
待ち時間に読んでいた恩田陸の小説。

海を見ながら風に吹かれていると、40分間はあっという間だった。自宅からたった1時間30分の場所でも、船に乗るだけでずいぶん遠くへ行ったような気分になるから不思議だ。海に抱く憧れや期待感は、きっと島国に生まれてこの先に何があるか知らなかった頃のDNAに刻まれている。

夜は瀬波温泉に宿泊。これでいつ秋が来ても、両手を広げて迎えられる。

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