小林 まき

猫と温泉がすき。noteではフォトエッセイをつづっています。

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現像したフィルム写真に、地元横浜への愛が詰まっていた。

その街のことをよく知っているからこそ、撮れる写真というものがあると思う。わたしはそういう写真がとても好きだ。普段から、人でも場所でも着飾ったよそいきの表情ではなく、いつもの飾らない姿を見たいと思う方で、物事がもつ素朴な一面を愛している。 春の近づくとある日、わたしは横浜で時間を持て余していた。仕事ついでに帰省したものの、実家の鍵を持っていなかったため母親の仕事が終わるまでひとり時間をつぶすことに。ちらほらと桜が咲き始めていたので、桜木町駅で下車して大岡川を目指した。 都会

    • 春の日、花束を持って会いに行く。

      山形の春はすこし遅れてやってくる。わたしの住む土地では、ふきのとうが顔を出して、梅が咲いたらだいたい4月。それから桜が咲くまで2週間ほど。 冬の間、厚く空を覆っていた雲は薄くなり、気づけば青空が見える。やっと地上に光が届いたと思ったら、草木が目にも止まらぬ速さで成長していく。 世界が色彩を取り戻し、陽の気に包まれている! まるで全ての命を祝福しているかのように眩しい。 それなのに、私ときたら……。ひどい花粉症でよく眠れず、朝晩の寒暖差で自律神経は乱れ、黄砂で目と頬が赤く

      • 冬の栞

        3月に入り、冬の終わりが見えてきた。この冬は、私が山形に越してきてからいちばん雪の少ない冬だった。地元の人に聞くと、ここまで積雪のない年は初めてだという。雪は大変だけど、やっぱりとても綺麗だから、少ないのもそれはそれで寂しいものだ。 寒くて自宅に引き篭りがちになってしまう季節。心と身体の健康のために、出来るだけ外へ出かけるようにした。東北暮らしも4年目になり、少しだけ乗り切るすべを身につけた気がする。 今回は、厳しい季節の中、なんだかぬくもりを感じた瞬間にシャッターを切っ

        • 11月の小春日和

          肌寒さを感じるようになってきたものの、私の住む山形県鶴岡市は、本日の最高気温14℃。先の予報も17℃、18℃なんて数字がならんでいて、なんだか今年は暖かい気がする。このまま暖冬になれば良いのだけれど……。昨年水道管の凍結で苦労したことを思い返しながら願っている。 秋の太陽は相変わらずやさしかった。10月下旬から12月上旬にある、暖かい晴れの日を小春日和と呼ぶことに共感を覚えた。美しい日本語だなぁ。晴れた日には春のように浮き足だった気持ちで散歩に出かけた。 歩きながら、赤や

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        現像したフィルム写真に、地元横浜への愛が詰まっていた。

          季節のなかで、一番やさしいのは秋だと思う

          秋の真ん中に立っている。陽の光は心地よくて、果物に芋栗南京、秋刀魚など、食べ物がほっこりおいしい。春夏秋冬のなかで一番やさしいのは秋かなと思う。 東北地方に越してからよりいっそう感じるようになった。ここに暮らす人たち皆、厳しい季節へ向かうから、「今だけは少しやさしくしよう」てな世界の計らいだろうか。 そんな季節に撮った日常写真をまとめておこう。こうして見返せるようにしておけば、厳しい冬にもやさしさを思い出せるはずだ。

          季節のなかで、一番やさしいのは秋だと思う

          笹川流れの遊覧船で、おもしろ岩とかもめに出会う。

          9月に入り残暑はまだまだ厳しいものの、朝晩の風にどこか切なげな香りを含むようになった。大きくどっかりとしていた雲は、ぼんやりと薄く延びはじめ、確実に秋が近くまで来ている。 私は焦っていた。夏のうちに、どうしてもやりたいことがあるんだ。夏風邪や車の故障のせいで先延ばしになっていたそれは、笹川流れの海で遊覧船に乗ること。 笹川流れは新潟県村上市にある海岸で、その11kmつづく線上には変わった形の大きな岩や、洞穴が点在している。今は明るく透明な日本海も、あと数ヶ月すれば暗く白波

          笹川流れの遊覧船で、おもしろ岩とかもめに出会う。

          グレースカイ文化圏で暮らしてみえた、冬の色。

          太平洋側から日本海側に移住した何人もの知人から、同じ悩みを聞いた。それは冬の空が雲に覆われていることに住みづらさを感じるというもの。 わたしが3年前から暮らしている山形県の庄内地域でも、冬のほとんどが曇天もしくは雪や雨。はっきりとしたブルーの空を見ることはほとんどなくて「見えた」と思っても次の瞬間には厚い雲で覆われてしまう。 そんな土地のことを、先人たちに倣ってグレースカイ文化圏と呼んでいる。 人により影響はさまざまのようで、例に漏れずわたしにも実感がある。なんだか怠い

          グレースカイ文化圏で暮らしてみえた、冬の色。

          梅雨が来るのを、待っていた。

          今日、東北地方の梅雨入りが発表された。わたしの住む山形県も、週間天気を見ると傘マークが並んでいて、窓の外ではぽつぽつと雨が降っている。 子どもの頃、雨が大好きだった。雨が降るたびにお気に入りの長靴を履いて、水たまりのなかを歩いた。足に水の重みを感じるのが楽しかった。 大人になるにつれて、雨と聞くだけでうんざりするようになった。とくに、通学・通勤中の満員電車のにこもる湿度は手強かった。洗濯物が乾かない。湿度が身体にまとわりつく。ヘアスタイルがきまらない。 それでも雨は美し

          梅雨が来るのを、待っていた。

          すずきまき写真展 《春眠》を終えて

          2022年4月1日(金)〜10日(日)、山形県鶴岡市にある温泉地にて、はじめての写真展を開催した。少し時間が経ってしまったけれど、展示期間に写したフィルム写真が現像から返ってきたこのタイミングで、振り返りをしようと思う。 写真展《春眠》について 2020年、生まれ育った神奈川県の横浜市から山形県の鶴岡市に越した。移住からちょうど2年目の春。"湯田川温泉でひな祭りの時期に併せて展示をしたらどうか"というありがたい提案を受け、移住者のまなざしで見つめた2年間の記録をひとつの作

          すずきまき写真展 《春眠》を終えて