ショートストーリー 薔薇と数の子

ぷちり、ぷちり。
噛むごとに弾ける粒。
粒は濃厚な蜜を出す。
一つを時間をかけて味わう。
まだ皿に残る黄色い輝きをうっとり眺めた。

薔薇は花の女王。
そんな女王でも黄色いバラは嫉妬深いらしい。
黄色の薔薇の花言葉は嫉妬深いという。

私も、友達に好きな人を奪われたことがある。
グループの中の一人だった彼を、同じタイミングで好きになった。
いつも素直な友達は、分かりやすく彼に近づく。
私はいつもツンとした態度で、気付けば二人は付き合っていた。

奪われたと思った。
大人になった今でも思う。
恋心なんてなくなったはずなのに、悔しく思う。
彼を奪った友達は今度結婚するらしい。
もちろん相手は彼ではない。
とっくの昔に別れている。
でも別れるくらいなら、付き合わないでほしかった。

気分を変えるため、お取り寄せした高級数の子を冷蔵庫から取り出した。
常備している数の子が少なくなっているのに気が付き、スマホでまた取り寄せる。
子供の頃からの好物。
数の子用の容器の横に投げ出された招待状が目に移り、ため息が出る。

彼女からの結婚式の招待状の出席に丸をつけながら、数の子を味わう。
彼女は相変わらず勝手に幸せそうだ。
私に連絡をくれた時、貯金しなくちゃと意気込んできた。
思わず、私ならご祝儀を弾んでも痛くも痒くないと、皮肉を言ってしまう私も大概変わっていない。

数の子は、かつて黄色いダイヤと言われていた。
今では手軽に手に入るので、言われなくなったらしい。
だが、この美味しさは黄色いダイヤと言っても良いのではないかと思う。
イクラのほうが魚卵としてメジャーで人気があることに、嫉妬してしまうくらい。
私は、パリッと歯応えを感じる数の子の方が断然好きだ。

一途に思う心は、深い嫉妬心に比例する重さがあると自負する。
確認のため招待状をもう一度見る。
出席につけた丸を見て、顔がほころぶ。
それは、友達の結婚を喜ぶのではない。
彼がくることを期待して心が弾んだ笑顔だった。

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