ショートストーリー 小夏のマーマレード
小夏で作ったマーマレードを塗りながら、小さな実を付けたレモンの木にほくそ笑む。
冬の楽しみに思いを馳せて食べる初夏の味は、なんとも甘美なものだった。
庭作業が本格化する初夏は、やってもやっても終わりが見えない。
草取り、剪定、害虫駆除。
他にも各草花には、それぞれやった方が良い事が細々と用意されている。
これらは、天候と生育のタイムレースとなるが人間にも植物同様、栄養が必要だ。
日が一番高くなり、作業が捗らない時間となった頃に、一度屋内へ避難した。
頂き物のパンをトーストし、同じく頂き物で作った手製のマーマレードを用意する。
窓際で庭の進捗を眺めながら、サクサクのパンを喰む。
定年後に始めたガーデニングは、一年、二年と年月を重ねる毎に範囲も規模も大きくなっていった。
そうすれば、合わせて近所付き合いの範囲も広くなり、田舎特有の物々交換の幅が広がった。
会社員時代には、毎度悩ませていたお返しにも悩まなくなった。
毎年花を咲かせ、実をつけるレモンで妻とマーマレードを作り、配るのが恒例となった。
マーマレードは案外評判良く、我が家には柑橘類が集まる。
すると、マーマレードを作り近所に配る。
一瓶家用に置いて、なくなる頃に新しい果実が届く。
そういう仕組みだ。
小夏のマーマレードは、苦味が少なく甘みも優しい。
我が家のレモンも負けてしまうかもしれない。
涼し気な甘さを暫し堪能していると、風がレモンの木を揺らした。
嫉妬に揺らいでいるような動きは、私を急かすようだった。
明日は風が強く吹くと予報していた。
早いところ風よけを設置するか。
小夏のマーマレードに、しっかり元気を貰った私は、しっかりと立ち上がり庭へ出た。
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