百物語 第三十六夜
高校の頃、細かくいうならば高校一年生の頃。
私は初恋をした。
相手はひとつ上の学年の先輩だった。
女子高校生なんて恋に恋する時期だ。私は先輩に恋をしたことを友達に打ち明けた。
それは当たり前のことだった。
放課後、友達同士で恋バナでもりあがるのは毎日のことだったし、私だって好きな人ができれば友達たちに言うのが普通だとおもっていた。
そして友達が好きな人をカミングアウトしたときのように、みんなが応援してくれると思っていた。
けれど、ちがった。
それは応援されなかった。邪魔されて、そのあと友達みんなに無視された。
というのも、わたしの友達グループのリーダーみたいな女の子と好きな人が一緒だったからだ。というような、少女漫画にありがちなある種のドラマティックなことがあったわけじゃない。
「えー!恋愛に興味があったんだ!」
みんなが口を揃えてそう言った。
友達の指摘で初めてわかった寝癖のついた前髪に手櫛をかけながら、みんなにそう思われても仕方がないか、と思った。
学校が休みの日、みんなで服を買いにいこうと誘われて、私は断っていた。
雑誌を見ながら、いま流行っている化粧品や化粧の仕方を放課後の教室で友達が楽しそうに試しているとき、私はそれに加わろうとしなかった。
私がみんなから、見た目を気にしないことから、恋愛に興味がないって思われていた。けれどもそれは仕方がなかったと思う。
私はみんなと同じように、お洒落にも興味があったし、恋愛だってしてみたかった。
けれどそんな気持ちがあっても、みんなに加われなかったのには理由がある。
私の姿は鏡に映らない。
小学生の時、私は花子さんに鏡の向こうの私を奪われた。
それ以降、わたしは自分の顔を見たことがない。
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