百物語 第十九夜
母の友人のご婦人の話である。
数十年前、旦那さんの転勤で山あいの村に引っ越した次の日の朝、玄関先にちょこんと、見慣れぬ碁石のようなものが置かれていたらしい。
拾い上げてみると、外側は碁石のようだが、内部のほうに輝きが見えた。その時は特別何とも思わなかったそうで、不思議な石だなあと思いながらも、庭先に放っておいたそうだ。
だが、そのあくる日も…ふたつ、横に並べるようにして、また石が置かれていた。昨晩の石は取り除いて捨てたはずなので、これは人為的なものだろうと家族に確認をとったが、誰一人心当たりがない。
さらに次の日も、朝になるとその石は増えておかれていた。夜のうちに誰かがここに来ていることだけは確かだが、なんの気配も心当たりもない。
夜じゅう玄関で、夫婦交代しながら待ったこともあったが、それでもいつ置かれたのかさえわからないまま、石はとうとう9つになった。
詳しい場所は伏せるが、この集落ではここいらの土地のことを「十塚」と呼んでいることもあり、「十揃うとなにか起こるのではないだろうか」「実は昔、十人の罪人の首を埋めたことからその名がついた」などと、うわさ好きの老人たちにまことしやかに囁かれ始めた。
十日目の朝。石は静かにそこに置かれていた。この日ばかりは口うるさい周りの住人も、固唾をのんで見守ったが、結局何も起こらず、ただ平穏のうちに過ぎて行った。皆は明日からのことをまた気にしながら、眠りについた。
十一日目の朝。石は一つ減り、9つに戻っていた。その後も一日ひとつと減って行き、そのたびに住人をやきもきさせた石は、二十日目の朝には全てなくなり、その後、村のどこにも見かけることは無かった。
「なんだか気味が悪かったわねぇ」とにこやかに話すご婦人は、結局そこにもう20年ほど住んでいる。
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