百物語 第二十夜
小学生の頃、クラスメイトの女子に霊感があると自称する子がいた。
休み時間にそれぞれのグループで遊んでいると、ふと混ざってきては、「昨日の夜こんなお化けが出たんだよ」と一方的に怖い話をしてきた。
ある時には授業中にも関わらず急に席を立ち、「ほら、あそこ見て!血だらけの女の子がいる!」と校庭を指差した。
そんな具合なので彼女には友達がひとりもいなかった。
いま考えてみれば、クラスで話題の中心になりたいがための言動だったとわかるのだが、まだ小学生だったわたしにはそんな彼女の自己承認の欲求を受け流すこともできずに、ことあることに「嘘つきおんなー!」と友達と一緒にからかったりバカにした。
彼女との思い出で鮮明に覚えているものがある。
ある日、その子とわたしは同じ日に日直になった。
わたしのグループの友達は「幽霊女にのろわれないように気をつけろよ」なんて言い残して先に帰ってしまった。
日直のしごとがおわり放課後の教室で帰ろうとするとき、その子はわたしにこう言ってきた。
「○○くん(名前は伏せさせてほしい)。私のこと本気で嘘つきだと思ってるの?」
普段はとっくに帰ってる時間だ。校舎は妙に静かで気持ちがわるい。
「はぁ?当たり前だろ!幽霊なんていねーよ」
私はいつものように、彼女をからかうようにバカにするように答えた。
「じゃあ証拠を見せてあげる…」
彼女の言葉にわたしは小学生らしく、
じゃあ見せてみろよ!
と啖呵を切る間もなく、彼女は私の顔を掴みキスをした。
わたしはもう何も考えられず、ただ身を硬直させていた。
彼女はわたしの口内に舌を絡めてきた。
小学生のわたしにはこんなことがこの世にあることが想像したことさえなかったので、ただただ怖かったのを覚えている。
彼女は、彼女の舌でわたしの口内をひとしきり犯してこういった。
「これがお化けの挨拶なんだよ。この間教えてもらったんだ」
そう得意げに言って彼女は帰っていった。
わたしはといえば、しばらくその場から動くことができなかった。
官能なんてない、純粋な恐怖にわたしは支配されていた。
この日の出来事を結局友達に話すことができなかった。
霊感を持つと自称する彼女は、小学校卒業を前に家庭の事情により転校をしてしまい、その後どうなったかは知らない。
わたしが大学生になった頃、小学校時代の同窓会があった。
懐かしい友人たちと初めて酒を飲んでいたとき、わたしは気が大きくなっていたのであろう、彼女の話題をだしてみた。
しかし誰もその子のことを覚えている友人はいなかった。
動揺したわたしは同窓会に参加していた全員にあの子の話をしたのだが、酔い過ぎだよ、と笑われて誰からも相手をされることはなかった。
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