百物語 第三十三夜

 

去年、母校の小学校が廃校になった。
私と同級生や同じ学校へ通った先輩、後輩と集まり、学校とのお別れ会のようなものをした時のことだ。

廃校なんて言葉を使うと、趣深い木造の校舎を思い浮かべるかもしれない。しかし実際にはどこにでもある特徴がない校舎の学校だった。けれど、それでも私やその卒業生たちにとっては思い出深い、特別な場所だった。


お昼に体育館でお別れ会をした。

そのあとは各自、お別れ会と称してお酒を飲む機会となった。私も小学校のクラスメイトたちと近くの居酒屋で飲んでいた。

22時をすぎた頃だと思う。
廃校となってしまった私たちの母校の小学校の七不思議の話になった。
七つあるはずの不思議な話なのだが、私たちの代にはひとつしか話が受け継がれていなかった。
それは、体育館の壇上の下にある地下には奇数の人数ではいってはいけない、というものだった。
奇数の人数で地下に入ると、異次元に飛ばされてしまう。そんな途方もない話だ。

地下には体育館での行事で使われるパイプ椅子や、いつなにに使ったかわからないような道具が保管されていた。
アスファルトの敷かれた床は、どの季節でもひんやりとしていて埃臭い、そんなところだった。


もう次の機会があるかわからないから今から試しに行こう、誰が言ったかは覚えていない。ただ私はその提案がなかったとしても夜に忍び込み、”1”人で体育館の地下へと向かうつもりだったので、ためらうことなく、いやむしろ率先してすぐに向かおうと友人たちを促してもいたはずだ。


私をふくめクラスメイトたちは合計四人。
七不思議を試すため4を奇数に割らなければならなかった。
私は1人の役回りを買ってでた。

私がひとり先にはいり、残りの友人たちが五分後にはいることとなった。
私はすんなり体育館の地下を出て、三人が出てくるのを待った。

三人は朝になっても現れなかった。
携帯にかけてみても、コールはするものの出られることはなかった。


私はひとり、住まいのある東京へとその日の昼には新幹線に乗った。
また選んでもらえなかった。そう思った。


あの時、親友三人で地下に入って、出た時には私ひとりだった。
一生の友達でいようと誓ったふたりはどこかに消えてしまった。

おれはあいつらが行ってしまった場所に行きたくて何度もひとりで地下へと行ったが、結局は当たり前に地上にでるだけだった。

おれの学校に残っていた唯一の七不思議は、異次元に飛ばされる恐怖ではなく、現実に残り孤独にされる恐怖。私はそう思っている。

異次元がどんな地獄でもかまわない。
おれはあいつらがいる場所へ行きたいんだ。

ひとりでいる天国なんてむなしいだけだ。

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