百物語 第二十八夜

あまり詳しく言うと場所がばれてしまうので、地名は出せませんが、うちの田舎の山奥には、なかなかの穴場な川遊びスポットがあります。

地元の人ぐらいしか来ないし、流れも穏やかなので、小さい子供でも遊ばせやすいです。お盆の前後は少々混雑しますが、子供たちの夏休みのレジャーにはうってつけです。

ただし、地元の人以外が来ないことには少々いわくがあるようです。

この川は、上流には子供たちが泳げる整備されたスポットがあります。ただし、橋をはさんで反対側になる下流は、大きな岩がごろごろしており、とても泳げる場所ではありません。子供たちも、中学生以上の大きな子供が探検的にチャレンジするぐらいで、あまり誰も近寄りたがりません。

そこに、飛び込み岩という名前の、ひときわ大きな 岩があります。大きいのですが、上は平らで、人間が10人くらいゆうに乗れそうな岩なので、おそらく飛び込み台のような見かけからその名がついたのだと思います。

ですが、周りは岩だらけで、その間を水が激しく流れており、実際には飛び込んだら怪我のひとつどころでは済みそうにありません。

いわくというのは、その飛び込み岩の上に、時々きっちりと揃えられたサンダルが置いてある、というものです。

あたりに人影はなく、橋の反対側は子供たちで賑わう中、いつのまにかひっそりと、黄色と緑のカラーリングの大人用サンダルが置かれているのです。

みた人がどうにかなる、などと言うこともなく、ただポツンと、揃えられたサンダルがそこにある…。

害はないものの、地元の人は気味悪がって嫌っています。
一度、市の人がこの川をもっと大々的にレジャースポットとして宣伝しようと、宣材写真を撮りに来たことがありました。しかし、帰って写真を調べると、その時は気づかなかったサンダルがしっかり写真に写っており、その事からレジャースポットの件は見送られたそうです。

実は私も今年の川遊びで、そのサンダルを見ました。橋を渡り、駐車場に戻ったあと、忘れ物をとりにまた橋に着いたとき、先程まではなかった黄色と緑のサンダルが、飛び込み岩の上にあったのです。

「さっき、誰かここにおった?」
そう尋ねると、母は首をふりながら
「いいや。でも、あれ、私が子供の頃に見たのと同じやね。」
と、静かに答えてその場を後にしました。

もう一度帰るとき、私はそのサンダルを確かめることは出来ませんでした。

正確な遭遇率はわかりませんが、お盆過ぎの平日と、雪の降る寒い1月の終わり頃によく現れると言われています。

もし興味のある人は、何年か後に少し調べて行ってみるといいかもしれません。市長さんが変わったので、またレジャースポットとして宣伝する案が出ているのです。

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