百物語 第四十三夜
大学時代に住んでいた街から車で一時間弱ほどの距離に有名な心霊スポットがあった。
Yトンネルという。
だいぶ昔に使われなくなってしまった古いトンネルだ。
友人のIとMの三人でYトンネルに肝試しをしに行き、そのままIの家に泊まった次の日の朝のことだ。
どんよりとしていやな朝だった。
雨が降りそうで降らない、湿度がやたらに高くて呼吸するだけで苛立つようなそんな朝だ。
俺が起きた物音でMも目が覚めたようだった。
特に何を言うわけでもなく、のろのろと上半身を起こすと、まだ横になっているIの方へと向かっていった。
Mもこの天気で機嫌が悪いのか、未だに寝ているIを荒っぽく起こしていた。
あまりこんな調子のMを見たことがなかったから俺はものすごく驚いたのを鮮明におぼえている。
「いやぁ!もうやめてよ!」
でかい声でIは叫んだ。
声のデカさと、女の口調で俺は面食らった。
ここで更に俺を思考停止させることがおきた。
MがIを殴った。
何発だったかまでは数えていなかった。とにかく一発、二発ではなかった。
殴られたIは最初こそ抵抗していたがおとなしくなってしまった。
口の端から血をつーっと流しながら、声を出さずに泣いていた。
「静かになっちゃうとつまんねえな?」
そう言うと、Mはこれまで見たことない下卑た笑みを浮かべ、俺を見た。
俺はMのその様子に恐怖したが、いやそれ以上に恐ろしかったのは、俺が興奮し下半身に血が集まっていくことを自覚したことだ。
「俺がいっぱい殴っちゃったから、今日の処女はお前にやるよ」
Mはそう言った。
「お前の次は俺だから、荒っぽいのは程々にしてくれよな、O」
遠くで聞こえるMの言葉と思い出すだけで吐き気のする笑い声…。俺はOなんて名前じゃない。
しかし俺には抵抗する気力さえ失ったIを犯そうとすることしか考えられなくなっていた。
そこからの記憶はない。
目覚めると昼だった。
朝に覆っていた雲は風に流されたのか、遠くには晴れ間さえ見える。
IもMもまだ寝ていた。
慌ててIの様子を見たが、殴られた痕などまるでなかった。
Yトンネルには若い女性がしばらく男たちに監禁された後に無惨な状態の死体を捨てられたという話があった。
現実の記憶のように未だに残っている、あの朝の夢の出来事はその逸話に影響を受けてのことだったのだろう。そう俺は思うことにした。
けれどあの夢の中で味わった暴力とそれによるこれまで感じたことのないような興奮を、それを感じることができる自分がいるということを、きっとこれからずっと俺はおびえていくんだと思う。
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