蜘蛛女
「痛いっ」
女は首のところを触ると、うっすらと血が出ていることに気付いた。
何か虫にでも噛まれたのだろうとその時は気にしなかったのだが、その日以来、どうも不思議な力を手に入れてしまったようだ。
人と握手をしようとすると、指の先から、何やらネバネバした気持ち悪い糸のようなものが出る。
人とぶつかりそうになった時に、危ないと避けたら、とんでもない跳躍力を見せてしまったこともある。
女は、あの時、"何か"に噛まれて以来であることを意識せざるを得なかった。
そんなある日、女が想いを寄せていた男と道でばったり出会うのだが、その男は、全く持って女には無関心。
その男は、いつもこの道で、三味線を弾いては、その日食べるためのお金を稼いだいたのだが、この日もいつもとかわらず、誰も立ち止まらない。
女は立ち止まってゆっくり演奏を聴きたい、いやどちらかというと、その男を見つめていたい気持ちを抑えながらも、これまたいつものように素通りをしようとした
その瞬間、男の首元に、マダラ模様の気味の悪い女郎蜘蛛がいることに気付く。
この女郎蜘蛛こそ、女に噛みつき、妙な力を与えた原因そのものであり、女は自分がされたことへの怒りと、好意を寄せる相手を傷付けようとするものへの憎悪から、咄嗟に、男の首元に手を差し出してしまった。
すると、指の先からは、あのベトベトベトの糸が飛び出して、男の顔と首をクルクルクルと巻き込んでしまったのだ。
女は焦り、すくざま糸を取り除こうとするも、焦れば焦るほど、指からは大量の糸が飛び出し、男を巻きつけていく。
やがて、男は、顔と首だけじゃなく、全身を糸で覆われ、そのまま、白い塊のようになってしまった。
気付けば、女郎蜘蛛ももうそこには、いない。
女は自分のせいではない自分のせいではない自分のせいではないと、ひとりごち、家へ帰り飯を食べた。