さようなら、チチ
8月。
私のインスタグラムに、Netflixで配信されている番組「ル・ポールのドラァグ・レース:Season8」に出演していたドラァグクイーンのチチ・ディヴァインへの追悼の投稿が並んでいた。
訃報を知る少し前から番組に関してnoteを書こうと思っていたけれど、チチのことを昇華できなくて、書けなくなってしまっていた。
芸能人にしろ、友人や家族にしろ、若くして亡くなる人への気持ちを、今までちゃんと書き残せたことは一度もない。
近しければ近しいほど、その感情は「言葉にならない」に尽きると思う。
私はチチの知人でも、熱狂的なファンでもなく、リアリティ・ショーを見ていただけの存在だ。
画面を通してしか知らない人の死が、なんでこんなに悲しいのだろうか。
訃報がもう少し過去になってから、彼女の姿を見返したいと思う。
ドラァグレースには、病気を抱えながら参戦するドラァグクイーンも少なくない。
Season6に出演したトリニティ・K・ボネットは、番組中にHVIを告白した。
Season8と9に出演したシンシア・リー・フォンテーヌは、Season8の撮影後に初期の肝臓がんが見つかり、切除して次のSeasonで返り咲いた。
Season11に出演したイヴィ・オドリィは、コラーゲンが生成できなくなる難病を抱えている。10年後には車いす生活になることが約束されている病気だ。
人生には限りがあることを、私たちは忘れがちだ。
その場その場で必死になるのではなく、安定したルーティンを組み立て、それをこなしていれば生活が回るようにすぐ自らを仕向けてしまう。
でも、ドラァグレースを観ているとふと思う。
私は生きている間にどこまで進化できるんだろうか、と。
ちゃんと、なりたい自分でいようとしているかしら、と。
「ル・ポールのドラァグ・レース:Season12」が配信された頃、一気に見終わった後の熱で書いたエッセイをBadCats Weeklyさまに掲載していただいた。
番組の中で審査員に批判されるクイーンたちの反応を見て思った色々を書いている。
Season12はアメリカに生きるペルシャ人(母は移民)のジャッキー・コックスが印象的だった。社会問題で困っている当事者の声を発信し、コロナ渦で家に籠る人を励まし、医療従事者にエールを贈る……このSeasonの数々の場面が、番組の真髄を表していた。どのシーズンから見始めればいいのかわからない人にも、おすすめのSeasonだと思う。