空手のお話 SNSで拡散された、ある試合の動画より。
今、Xで話題のこの動画はご覧になりました?
オイラはこの動画見て驚いてしまったのですが・・・。
これどう思います?
色々なところでポストされて拡散されてしまっているのですが、中には犯罪だとか破門だとか、永久追放だとか種々様々なリプライが上がっています。
そこで「伝統派」ではあるものの空手道の指導者であり、全日本空手道連盟の公認審判員であるオイラが思うことを書いていきます。
前提
当該の動画はフルコンタクトカラテですが、伝統派の全日本空手道連盟の有資格者として見た場合どう思うか。フルコンタクトのルールを熟知しているわけではありませんので、一般論であり、あくまでもオイラの主観です。
何が問題なのか
問題①
この主審は反則を見逃してしまっています。我々、伝統派でも過度な接触はペナルティの対象ですが、フルコンタクトカラテの場合は上段への手拳での攻撃は反則であるはずです。手拳での上段への攻撃による強めのコンタクトを見逃しています。
問題②
手拳でのコンタクトを受けた選手戦意を喪失してしまい、背を向けました。
動画ではここで主審が「ヤメ」をコールし試合を止めているように見えます。
主審が「ヤメ」コールしたとしても、もう一方の選手が新たな攻撃に入る可能性がある場合、「ヤメ」と同時にそれを防ぐために選手と選手の間に入って、新たな攻撃を防止を講じなければなりませんが、主審が能動的にそうした安全対策をしていません。
問題③
一方の選手が反則行為を行い、もう一方の選手が倒れ込んでしまった後。
主審が取った行為は、反則行為を行った選手を元の位置に戻し、座っている2名の副審とゼスチャーで判定の確認を行なっています。
主審は倒れ込んだ選手に目をくれることもなく放置してしまいます。
選手が倒れたことを確認したら、状況の確認を主審が行い、ドクターを呼ぶ。
これが主審の取るべき行動です。
判定の確認は倒れ込んだ選手の状況確認をしてからでも間に合いますし、ペナルティの確定ができないでしょう。倒れ込んだ選手の状況によってはペナルティの度合いも変わるのではないでしょうか。
審判に求められる視点と行動
この動画の件って、審判が取れる技を探して、技に応じたポイントを出すためだけにコートにいるから起きてしまったように思うのです。
選手が繰出す技だけを見て審くだけが審判の仕事ではありません。
特に、子どもの大会やローカルな大会の場合は次の挙げるようなことが審判に求められてきます。
選手それぞれの技術レベルとその差の見極め。
選手自身で感情のコントロールができているか否か。
選手の感情をいたずらに昂らせるような周囲の煽りが有るか無いか。
最低、上記3点を主審が適切に行うことで選手が怪我をするような事故を防ぐことができます。
今回の場合は・・・
この動画の試合では主審の「ヤメ」のコールの後に選手関係者から「行け!」と声がかかったと言われており、そのような声が聞こえているような気もします。
そのような煽りは、その時だけではなくそれ以前にも必ずあります。関係者の資質の問題ではありますが、煽りと取れるような言動を感じ取ったタイミングで主審あるいは副審、コートコントローラーがその関係者に注意をするか、そのコートから引き離すことも重要です。
応援と煽りは違います。煽りを抑制するのは、そのコートの審判員の責務です。
結論
この試合、この結末を迎えてしまったことは本当に不幸なことだと思います。
最終的に、この結末を迎えることになってしまった原因を作ったのは、私は審判員だと思います。
この事故は防げた事故だと思います。
その主因は、問題として挙げた3つのうち①で挙げた反則がしっかりと処理をされていたならば、②には繋がらないですし、主審が「ヤメ」をかけた後に、しっかりと間に割って入り、当該の反則行為を行った選手を制していれば防げたことです。
選手を煽るような言動があったならば、それを諌めるのも審判員の責務でその責務を果たせば防げていたとも考えられます。
それらを行っていない審判員が、主因で引き起こされたものであるというのが私の結論です。
まとめ
主審には「ゲームコントローラー」であるという大きな責任があります。
主審が「始め」のコールをしてから「勝ち名乗り」をするまでが、その試合の主審を任せらた審判員の責任です。
その責任を全う出来ないようであれば。審判員として大会に関わらない方が良いとオイラは思うのです。責任を全う出来ないものが審判員をすることで、「選手に怪我をさせる」「大会自体の信頼を失わせる」だけではなく「空手」「空手道」が不審や批判の目を浴びることになります。
空手をしていて、普及に努める立場であるならばそれは絶対に避けるべきです。
フルコンタクトの世界では、こうしたことが多いようにも聞きます。
それらを対策するために、何をすることが必要なのか。
これを機に、よく考えてみるべきではないでしょうか。
「空手」「空手道」の未来のためにも。
後記
ここからは徒然に。
この類のことが拡散されて、事が大きくなるのはフルコンタクトカラテであることが多いんですよ。
あまり好きな言葉ではないですが、我々のように「伝統派」の空手道をするものの中に、「フルコンタクトカラテは迷惑だ。」と、ハッキリ言う者もいます。
今回のような拡散があると「フルコンタクト」「伝統派」関係なく「空手」という枠の中で一緒くたにされてしまい
「これだから、空手はダメなんだ。」
という声を大きくする人が現れるからです。本当によく言われます。
これは我々にも責任があることで、しっかりと「空手」「空手道」を知ってもらう努力をしてこなかったのが原因ですから。
2021年に行われた、東京オリンピックでは空手道が開催都市選択競技で実施されました。結果としては組手の男子+75kgで銅メダル、男子型で金メダル、女子型で銀メダルという結果でした。
この競技採用決定前に、フルコンタクトカラテの団体幹部と仲立ちした国会議員、全日本空手道連盟の笹川尭会長と会談をしたそうです。アポイント時点ではフルコンタクト側は代表者1名の予定。しかし当日、蓋を開けてみると団体幹部が大挙して現れたそうです。
そして、フルコンタクトもオリンピックにフルコンタクトのルールで参加ができるようにWKFに取り計らってくれ。と強く迫ったとのことでした。
それに対し、笹川会長は
「オリンピックに参加したいのであれば参加しなさい。そのかわり、IOCは1競技1ルールだと言っている。WKFのルールで参加しなさい。それが出来ないのであれば無理だ。」
と、言って一蹴したそうです。
この程度ですから、「空手界にとってフルコンタクトは迷惑だ。」という考え方の人がいるのは理解に苦しみません。むしろ当然のことだと思います。
しかし、同じ「空手」「空手道」の中に色々な競技性のものがあってもオイラは良いと思います。だけど、違う競技性の人たちに「迷惑だ」と思われない工夫はするべきだと思います。そのために何をすべきか今一度、フルコンタクトの人たちはよく考えるべきだと思いますよ。
我々、伝統派の大会。それも各都道府県連盟や市町連盟や流派会派の大会がどんな大会運営をされていて、審判員たちがどんな競技運営をしているのかを見て、しっかり勉強されるべきだとオイラは思います。
まずは、そこからです。
勉強したなら、競技規定(ルール)の統一と参加団体への啓蒙、審判員の養成・継続教育と指導者教育に取り組まない理由はない事がすぐにわかると思いますよ。
因みに、全日本空手道連盟では各都道府県連盟に対し、年に一度の義務講習を受けない審判員の資格運用をしないように通達しています。併せて、3年に一度の資格更新時に講習受講を義務付けており、講習受講しないと資格失効してしまいます。
指導者教育として日本スポーツ協会の公認コーチ制度を用いて資格取得に向けて毎年、全国各地での養成教育と更新時の継続教育をしています。学校教育の武道必修化に合わせて学校教員向けに空手指導者講習会も実施しています。
ルールに関しても、ごく一部「一本勝負」などのオリジナルルールがある流派会派を除いて、流派会派の全国大会から市町の大会まで「全日本空手道連盟競技規定」を用いて大会が運営されており、全日本クラスから市町の大会まで全日本空手道連盟の公認審判員が大会の競技運営をしています。
そのくらいになるために本気になってやらないと、フルコンタクトカラテでの今回のようなトラブルは無くならないと思いますし、様々なトラブルが増えていく。
その先には組織の先細りということで未来が開けなくなります。
そうならないためにも、もっと勉強をされて制度仕組みを整えてトラブルを少なくすることとに取組み、フルコンタクトカラテの一本化を強く望みます。
そうすることでフルコンタクトの指導者さんたちが教える「道場生」や「弟子」を守る事ができ、普及拡大の一助になっていくのだとオイラは思うのです。
今回はとても長くなりましたので、この辺で。
それではまた。