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『マイナ保険証6つの嘘』をどう読むか


『マイナ保険証6つの嘘』を立ち読みしてきました。

不正は深刻になる


 結論は明確です。なんとかしてマイナ保険証の実質的義務化を中止し、せめて紙の保険証との併用にさせること、その方向へ一人一人が参加していくことが提言されています。

 その論拠となる嘘の指摘の中で「不正は深刻になる」といわれていることはまさにその通りだろうと思います。これまでは起こり得なかった医療機関等による資格情報等の大量不正取得、流出、不正使用が懸念されます。

 等、等とは何かといえば、保険診療機関、薬局、そして柔道整復師、鍼灸師等、そして資格情報と紐づけされた様々な個人データです。病歴のデータは間違いなく売れます。

 少したとえは悪いのですが上場企業でさえしばしば産業スパイが問題になりますね。通信会社とかお寿司屋さんとか。保険診療機関は不正はしないということはありえません。理由は資格確認システムが常時監視されておらず、いつでも大量に、その場に患者がいなくても、情報検索できるずさんな仕組みだからです。検索ログは残るとして、不正に検索しないと思いますか。

 この一点だけに関しても「リスクは明確なのでシステム設計と制度設計は根本的に性悪説に基づいて見直すべきだ」と言えます。


医療の質は向上しない?


 ここには疑問符が付きます。医療機関側ではマイナンバー構想とは別に医療等ID等による国民医療データベースのようなものの構築を検討していましたがなかなか実現しませんでした。
 
 しかしマイナンバーカードが保険証として利用されるという制度設計の中で、結果として日本国住民にIDが割り当てられたような形になり、新たに医療等ID等を附番せずとも国民医療データベースのようなものの構築が可能な状況が出来上がりました。現状では診療報酬データと診療内容データはリンクしていませんし、診療報酬データは医療側のコントロール下にはありませんが、とにもかくにも日本国住民にIDが割り当てられた意味合いというのは大きいと思います。

 現状ではそのことの成果もまだ見えません。

 ただ医師の側からは適当に梯子受診をしている患者を見つけられ、他科の受信歴が解る程度のことなのですが、これから解ることというのも必ず出てくるでしょう。


デジタル化が社会を壊す

 

 この問題は「トラブルは減らない」「全く便利にならない」「社会的コストは膨大に増える」という問題と同時に考えていかねばならないと思います。

 マイナ保険証運用の経緯の中で、最大の成果は「これまでの書類ベースの行政がでたらめだつたということが見える化したこと」だと言えます。

 これは著者が指摘している住所表記のルールが存在しなかったこと、外字の取り扱いがまちまちだったことなどだけではありません。
 これは現にデジタル庁に何度も訴えていることなのですが、そもそも法概念によって「住所」の意味が異なるのではないかという問題もあります。なぜそこに気が付いたかというと、医療保険者の住所データを調べてみると、一か所にたくさんの人が住んでいることになっていたからです。これはああそうかという話で、ベトナム人の研修生を大量に寮にぶち込んで住民登録させるわけですね。役所では居住確認しません。つまり住所とは住民税の管轄地であり、郵便物が届けばいいので、私書箱で成立してしまうわけです。

 全部でたらめを暴いてしまうと怒られるので書きませんが、ともかく紙による届け出方式の行政システムは漏れや斑の集積でかなり適当なものであったわけです。

 そこで慌てて「よみがな」の法定義や戸籍に「よみがな」をふること、そして標準データモデルの整備などが進められています。要するに「最初は分からなかったことがやってみてだんだん分かってきた」というわけです。データを統合しようとしたのが初めてなので、これまではいい加減だったことすら分からなかったのが解ってきた。この見える化は明治政府ができて以来の大発見なのではないでしょうか。

 見える化からの標準化の流れは正しいことだと思います。そして「トラブルは減らない」「全く便利にならない」「社会的コストは膨大に増える」かどうかは別として、行政システムを俯瞰から見た場合、例えばネット証券のように、株券のペーパレス化というものは進めるべきだったんだと思います。行政と、そしてマイナ保険証反対派の皆さんの溝が埋まらないのは、まさにこの点、眺める位置の問題なのではないかと思います。

 今の行政データはいい加減 → 標準化は無理 → いい加減なままだらだらやろう……これはまさにうすうすはいい加減な仕事に気が付いていながら何もしてこなかった小役人の発想そのものですよね。

 データを見たコンサルティングファームは驚いたと思いますよ。こんなにひどいんだと。

 そこで見なかったことにするかどうかですね。


で、どうするの?


 ただやはり一番悪いのはマイナ保険証の裏で何がどう問題となり、どうしていくべきなのかと考え、そして議論するための情報がでてきていないこと、ではないでしょうか。今の政府の広報は明らかにおかしいと思います。

 デジタルの意味が曖昧です。これは『マイナ保険証6つの嘘』についてもいえることです。実はデジタル化とはバイナリーデータでびゅーっとやることではなくてネットでびゅーとやることなのです。

情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律

 通信技術が大前提にあるわけですね。通信技術で便利にしよう、と言われて反対する人はそういないと思います。いや、俺は回覧板でしか情報は受け取らないという人はもういないでしょう。

 そこだと思うんです。ATMは便利。これは窓口手続きと比べれば実感できると思います。株券は古い。

 そして思うのですが著者は今の行政データが完璧じゃないとしてそれを放置した方がいいと本当に考えているんですかね?

 何か解決策を見つけるべきではないですかね。

 定年間近の小役人なんかは現状維持が一番いいんでしょうね。何も考えず済みますから。

 では、解決策は?

 書きましたがな。

※ちなみに現行のカードリーダーの仕様は法的要件を見たいしていないのでその運用は違法です。

患者は病院に提供する情報が見られません。ディスプレイには「同意する」としかでてきませんので。これ違法です。


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