舌打ちの流儀
谷崎潤一郎の『鮫人』に「ちゆツ」という舌打ちが出てくる。傍点付きで。
それ以前の谷崎作品では確かに「ちよツ」が使われていた。樋口一葉、徳田秋声、鈴木三重吉なども「ちよつ」を使う。
今舌打ちは「チッ」「チェッ」が一般的だが、昔は「ちゆつ」「ちよつ」なのか?
谷崎はドアをドーアと表記するなど、やや表記に癖があるのだが、ただそれだけの理由ではないような気もする。
どうも昔は確かに「ちよつ」の頻度が多い。むしろ「チッ」「チェッ」が見つからないのだ。
こういう音に関しては、文字の読みの問題もあり、やがて訳が分からなくなると思う。
しかしどうも「ちゆツ」はない。
これも、やがて訳が分からなくなると思うから記録しておく。
なんとなく本能的にやっているつもりが、舌打ちでさえ時代の鋳型から自由ではなかったとすれば驚きだ。
谷崎が「ちゆツ」において、舌打ちの流儀から自由であることが凄いと言えば凄い。可愛いと言えば可愛い。
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