地図を見ないと気が付かない
結婚すると女は三倍強くなると言われる。何基準で三倍なのかは分からないがおそらくそういう傾向というものはあるのだろう。特に大阪のおばちゃんは。
女は強い。強くなる。
しかしまだ大したことが起きている訳でもない。「その八」なのに、
まだ風呂に入る程度である。風呂なんてみんな入る。同姓が風呂に入ることは異常ではない。まだ格別可笑しなことはしていない。手紙のテンションがおかしく、夫には隠さなくてはならない親密さが隠されているだけだ。しかし夫は変態性欲を見出してしまう。
美の感覚か変態性欲か……。
そんなことを考えながら読み進めると徳光光子が婚約者綿貫栄次郎と宗右衛門町や心斎橋筋のつい裏通りの旅館井筒で着物や財布を盗まれるという事件に出くわす。そして徳光光子の家は蘆屋川の停留所から川の西をもっと山の方に行って、汐見桜という名高い桜ある近所だと解る。船場の御嬢さんかと思っていたが、どうも話が違う。
替えの着物を井筒に届けた柿内園子は阪急で夙川まで後戻りして、タクシーで香櫨園の自宅に戻る。
え?
香櫨園? 香露園じゃなくて?
つまり柿内園子の自宅は梅田駅より北と見做していたが……。香露園でなくて香櫨園ということは、全然西の兵庫県の、ええと……どの辺だ?
ん、ここか。つまり通学路は、なんや、偉い遠いな。
しかしこっちなると……。香櫨園だとかなり話が変わってくるぞ。何しろ、
こうなのだから。つまり徳光光子の家も、柿内園子の家も尼崎、鳴尾、西宮の向こうだったのだ。これは旦那の立場で東京で考えると、荻窪の人が新宿に通っていたくらいの感覚だろうか。
兎に角この事件の結果、
と、いったん収まりそうになる。何しろまだ一線は超えていないないのだから、ここで関係が切れればなんということもなくなる。柿内園子は学校を辞めようかと言い始める。しかし、二人の家は芦屋川と香櫨園なのだ。
これで話が終わるわけもない。何故ならまだ「その十二」の途中なのだから。