政治を視ることへの入門
大学や高校などで、政治学をこれから学ぼう、修めようという人向けに、ガイドラインとなることを目的として、「政治とは何か」について、色んな視点から見てみる。
①政治とは(イーストンなど、教科書的な説明)
まずもって「価値の権威的配分」であるという定義がある。また、"Who gets what, why, where”を対象とした学問であるという説明がある。
「価値(worth, value)」とは、第一に金銭的価値(貨幣)であるが、承認(名誉)などの対人的価値であることもあり得る。承認が具体的に形を取ったものが「地位」といった社会的立ち位置や家柄であったりする。地位によって一方が他者に命令できたり、力(すなわち権力。これもまた、政治学の別の重要なタームである)を行使できたりする。
互いに「承認しあう」関係性が、一方が他方へ、遜り(へりくだり)や貢納を差し出すというふうに、明確な上下関係の形(関係性)に変化するとする。その承認関係の形のことを「権威」(一方が他方に権威を持つ)と言う。言い換えると、承認関係はヒエラルキー(価値の上下の区分)のかたちをとることがある。その場合にはヒエラルキーの上位(=権威)が価値になる。価値と権威構造は、両者が双方向に影響しあっていて、ニワトリが先か卵が先かという状態になっている。
ちなみに、先ほど述べた「互いに承認しあう関係性」のことを、一側面からみると、「平等な関係」という。それを切り詰めると(パンの上にうっすく伸ばしたバターみたいに、全体を蒸発させて、残った部分を薄く固めると)(相互に与えあう承認の全体のうち、部分的な項目だけを切り出して、それらの切り出した部分を概念としてぎちぎちに固めると)「人権」になる。
②北岡伸一の理解
政治とは、大多数の国民(すなわち民衆・大衆)の支持を得ることを目的としたあらゆる活動である。
すなわち、大多数の人々を統治するための、個人的・組織的な活動である。
(ここで言う「統治govern」とは、ソフトな「支配dominate, rule」であると、そういう切り口から見てもよい)
(筆者注)この定義には無視できないものがある。現代の民主主義「政治」のありさまをリアルに表現しているからである。
③小野紀明・ダール(・フーコー)
政治とは影響関係である。影響させる/影響を受ける この構図が政治である。
一方が他方に影響を及ぼす、その要「因」のことを「力」と呼ぶ。力はどのようなものか、それが具体的な形をとったものを挙げると、「暴力」「金銭」「言葉(言論)」などがある。
近代国家(要するに現代の国家である)は暴力を担保(礎)にして存在する、というのが通説的な政治学の理解である。
④「経済」との対比
「経済」と対比する。経済と政治は密接に関連している(すなわち、同じようなテーマを扱っている)部分もある。が、両者の異なる部分に切り口をあてる。
経済とはまず①社会における価値の増加を目的としてその手段を検討する学問である。手段として生産体制(分業体制など)に目を向けたり、交換関係に目を向けたりする。また、最近では、②価値の適切な(この「適切」という言葉はかなりぼやかした言葉であり、何が適切であるかは政治、すなわち影響関係によって決まるところが大きい)配分、分配(割合)に焦点を当てる向きも大きい。
⑤まとめ:「政治をわかる」とは、人間関係における「力」をわかるようになることである、というひとつの理解
政治とは「力」に焦点を当てる。それは、政治のひとつの重要な本質(ミクロレベルで見たときの)が、影響関係だからである。
影響を与えるには力が必要な時が多い。力とは「因(要因)」であり、ときには「価値」を一方が他方に与えることが、力として作用することもある。
力を分析する、力の内実を視る、力の内容を理解して深める。これが政治学の一部(特に、政治をメタで見る研究領域)で取り扱う内容であり、私が政治学が面白いと思う理由である。