初めての病棟指示 8シチュエーション 〈前編〉
良くない病棟指示の特徴
患者ごとに不要な個別化がされており、標準的でない/汎用性が低い
記載が冗長である
Dr.Callのタイミングがわからない/不適当
指示が更新されず、患者の病態の変化に合っていない
① 発熱時の指示
発熱への対処が必要な理由
臓器障害の予防:心肺停止からの蘇生後、急性期脳障害、高体温、41℃以上の極端な発熱 など
自覚症状の緩和
発熱時に使用する薬剤
アセトアミノフェン(経口:カロナール、静注:アセリオ)
NSAIDs(解熱作用だけでなく鎮痛作用あり。潰瘍、腎障害、喘息に注意!)
Dr.Callへの対応
Fever workup:血培2セット、胸部Xp、尿検査・尿培養
院内の発熱における6Ds:Device, Drug, Difficile, Decubitus(褥瘡), DVT, CPPD(偽痛風)
発熱をきたす緊急疾患:敗血症(qSOFAを活用)、薬剤性高体温(セロトニン症候群、悪性症候群)
発熱時の対応に関しては、かの有名な「ホスピタリストのための内科診療フローチャート」を執筆された髙岸勝繁先生による非常に勉強になる記事あり:
② SpO2低下時の指示
指示のポイント
SpO2の目標値は、基本的に94~97%で十分。高くしすぎない。
CO2ナルコーシスのリスクがある患者では88~92%程度でよい。
酸素需要が5L/分以上のときは、酸素マスク&Dr.Call(←酸素マスク5L/分でSpO2 94%のとき、P/F比は約200まで低下している)
SpO2低下でDr.Callされたらどうするか
ABCの評価とバイタルサイン確認
突然のSpO2低下に対しては酸素投与OK。ただし、COPDの患者には血液ガス分析を実施し、pH<7.30 or PaCO2>50 Torr ならNPPVも考慮。
C:循環不全によるSpO2低下を見逃すな!ショックの5P、cappillary refill timeを確認。循環不全の可能性があれば、直ちにルート確保!
循環不全の気づき方に関しては、これまた高岸先生による秀逸な記事あり:
③ 血圧異常時の指示
高血圧緊急症(hypertensive emergency)とは
高血圧緊急症の原因は、表の通り。
高血圧緊急症に対する一般的な降圧目標
はじめの1時間以内:平均血圧で25%未満の降圧にとどめる
次の2-6時間:160/100 mmHg程度まで
その後24-48時間:140/90 mmHg未満
高血圧切迫症(hypertensive urgency)
高血圧切迫症とは、sBP≧180 mmHgまたはdBP≧120 mmHgの高血圧だが臓器障害の徴候がないもの。ガイドラインによれば、降圧治療は診断後、数時間以内には開始すべきであるが、その後24-48時間かけて比較的緩徐に160/100 mmHg程度まで降圧を図る。
レジデントノートに記載されている指示の具体例は下記の通り。
低血圧時の指示
平均動脈圧<65 mmHg (もしくは、sBP<90 mmHg or dBP<50 mmHg)のとき、症状とバイタルサインを確認してDr.Call〈ショックとみなして対応する〉
明らかなショック徴候があれば18Gで末梢ラインを2本確保
集中治療室において敗血症性ショックが推定される場合には、Dr.Callの上で、輸液反応性の確認やノルアドレナリン開始を行う。
④ 脈拍異常時の指示
脈拍指示の出し方
原則:入院時に予想できない脈拍異常が出現した場合は、全例Dr.Callとする
脈拍指示の基本:HR<50 bpm または HR>120 bpmでDr.Call
洞調律の限界(目安):220-〈年齢〉 →高齢者でこの値を超えていれば頻脈性不整脈を考える
頻脈でDr.Callされたときの動き方
まず循環動態を評価する(バイタルサイン、理学所見)
循環動態が破綻している!→人員確保、ABCを立て直す
循環動態OK→モニター心電図を遡る
頻脈の種類に応じたアプローチ
● 洞性頻脈:まずは心臓以外の原因を考える(循環血液量の低下、せん妄など)
● 心房細動:夜間や休日に洞調律を目指す意義は乏しい。リズムコントロールは行わずに、レートコントロールを行う。
発作性上室性頻拍(PSVT):救急外来では迷走神経刺激も有効だが、一般病棟だと指示に従えないことも多いので薬物投与が現実的。下記の順序で行う。
心室頻拍:ベッドサイドに行き患者の様子を観察し、問題なければ実は心房細動の場合も多い。真のVTであれば、応援を要請!
徐脈でDr.Callされたときの動き方
まず循環動態を評価する(バイタルサイン、理学所見)
循環動態が破綻している!→人員確保、ABCを立て直す
(異常高血圧+徐脈では頭蓋内圧亢進も鑑別に挙げる)循環動態OK→モニター心電図を遡り、発症が緩徐/突然か確認する。
▶ 突然発症の徐脈に対しては、全例12誘導心電図を行う。徐脈性不整脈の原因:洞不全症候群、房室ブロックなど
▶失神、めまい、心不全症状の有無について病歴聴取し、専門科コンサルト。
まとめ
病棟指示の基本
病棟指示に使う薬剤は、「誰にでも手早く使えて早く効く(byレジデントノート)」ものを選択する。
無駄に汎用性が低い指示はNG。
病棟指示にはDr.Callのタイミングを明確に記載する。
発熱時の指示
アセトアミノフェンが基本
Dr.Callへの対応:Fever workupを忘れない。発熱の原因としてデバイスや薬剤性を含む6Dsを鑑別する。
SpO2低下
ABCの評価とバイタルサイン確認(C:循環不全も念頭に)
酸素投与(COPDには血液ガス分析)
高血圧
臓器障害の徴候の有無によって、降圧目標が変わる
低血圧
Dr.Callの基準となるsBP(90 mmHg), dBP(50 mmHg)を記載
ショックであればルート確保
脈拍指示:<50 bpm, >120 bpmでDr.Callが基本
脈拍異常への対応は、まず循環動態の評価から。安定していればモニター心電図を遡る。
参考文献
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