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〔小説〕5108ラジオ7865チャンネル 1 オープニング

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5108ラジオ 7865チャンネル…
何をどうしても、普段はこの7865チャンネルには合わせることができない。

毎週1回、日曜日朝の3時28分ピッタリにだけ合わせることができるのだ。

たくさんの子ども達が休みの朝を思い切り寝過ごすために熟睡し、
たくさんの大人達がお酒により気分がハイになり、
たくさんの大人達がそれに呆れて先に夢の世界へ…
そして、曜日など関係なく、仕事に備えて睡眠中か出勤準備をしている人もいるのがこの時間。

人知れず放送されているのが
5108(コトバ)ラジオ局「7865(ナヤムコエ)」
【通称328(ミツバ)ラジオ】

ごくごく一部で知られる通称は
ラジオ局の名前ではなく、チャンネルでもなく、
放送される時間から付いたこの呼び方だった。

「おはようございます。」
今日パーソナリティーの優(ユウ)がスタジオ入りした。
〈スタジオ入り〉とかっこ良く言っても、ここは優のスタジオを兼ねた自宅である。
ショートの髪をヘアバンドでスッキリさせたカントリー風のワンピース姿は林の中に建つ木製の家にピッタリだ。しかも、裸足。

「おはよー。相変わらずいつまでも朝が弱いな。」
茶髪の髪をワックスで遊ばせ、パーカーにチノパン、サンダルを身に付けた夕(ユウ)が奥の部屋から椅子に腰掛けながら覗き込む。

どちらも名前は「ユウ」。その日によってパーソナリティーは交代する。

「身体が朝を拒否してるんだからしょうがない。一生、朝に勝てる気しないからよろしく。そもそも、今って朝?」
時計は3時20分を示していた。
「メール開いてるよ。」
タブレットに開かれた受信メールの一覧には
[髪型のイメチェンに悩んでます]
[子ども達が言うことを聞いてくれなくて悩んでます]
[勉強に付いていけてなくて悩んでます]
などなどたくさんの件名が並んでいた。

いつも届いたメールには全て目を通し、一言ずつ返信する。その中でも気になった内容のメールをラジオで取り上げるのだ。

「1分前だよ。」
夕の声で優は椅子に腰かける。
「10秒前…」
カウントが終了しいつもの音楽が流れ始めた。

ナヤムコエ=悩む声
どことなく沈んだ、静かな印象を持ってしまいがちだがオープニングは
「曲名は"HAPPY"です!」と言われても納得できそうな曲から始まる。

ピアノとアコースティックギター、そこに高くて可愛らしい音が軽快さをプラスする。

「おはようございます!1週間ぶりです!今日も始まりました5108ラジオ7865チャンネル通称328ラジオ。今日のパーソナリティーはこちらの優です。」

お決まりの挨拶で始まる。
初めてのリスナーは「こちらとは…?」と思うかもしれないが、ほとんどが口コミで知った人ばかりなのでその辺の事情も承知のリスナーが多い。

「いつもたくさんのメールをいただきありがとうございます。ちょっとしたコトや、心に中々のダメージを受けるコト、悩みは尽きないですね。悩みが尽きないのが私の悩みです!」

時折笑い声を交えながらオープニングを終わらせ、本題に入る時間だ。





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