【小説】「もう1人の僕」①
最低の気分だ。
朝から嫌な場面に出くわした。
電車の中で男が女性に痴漢を働かせていたのだ。女性が周りに助けを求め、その男は駅員に連れていかれていたが、その時の男の表情は恍惚としていた。
反吐が出る。
社会という枠組みの中で生きている僕達はいわば鳥籠の中で飼われている生き物。
食事をするのも、休憩をとるのも全て許可が必要。管理されているのだ。
無意識的に管理されている状態に疑問を抱かず、日々のうのうと過ごし、働き、命を削っている。気づかないならばそれはそれで幸せだろう。
たが、その管理された社会でも不穏分子は存在している。世に知られていないだけでそこらじゅうに蔓延っているのだ。
汚らわしい。
今朝の出来事もそうだ。
日本は特に性犯罪に関しての罰則が軽い。異常ではないか?
多くの国での罰則は死刑等が挙げられる。当たり前だろう。特に路線から外れている異常者には。
社会で生きる意味なんか無いに決まっている。お前らが存在していると考えるだけで心臓が痛い。軋む。体のあちこちが熱くなる。どうにか出来ないものか。
かと言って法律を変えるにはそれ相当の力が必要であり、僕はちっぽけな存在なので大っぴらに意見を主張することは出来ない。
何故考えたくもないのにこんなことを考えなければならないんだ。
こんなふうに気持ちが昂った夜の記憶が曖昧な時が僕にはある。頭の使いすぎかな。
嫌悪感を抱いた相手の特徴を鮮明に覚えていたりもする。身長約165、小太り、スーツにメガネ。
はあ……昔から無意識にしていることで直せないが、なんでこんなはっきり覚えてるんだろうか……
そんな自分に嫌気がさしてしまう。
色々と考えているうちに眠りに落ちてしまった。
そうだ、お母さん明日の朝ごはんに僕の好きな豚汁作ってくれるって言ってたな……楽しみだな…………
「ご飯できたわよ〜!降りておいで〜」
「今行く!!」
『今朝方、○○で殺人事件がありました。被害者は顔と手を複数回刺されているようで、警察は連続殺人事件として捜索しています。』
昔から好きな豚汁。今日も母や食物に感謝して食べようとした時
「あれ、あんたなんか手に痣あるわよ。どうしたの?」
「痣?」
あれ、なんだろう気が付かなかった。
手に痣なんて変だなあ。
そんなことを考えながら、今日も変わらない日常が続く。