令和6年予備試験論文 商法


設問1 小問1
1 甲社による本件株式の買取は「株主」たるDからの自己株式の取得(156条1項)だから厳
格な手続規制と財源規制により規制されている。本件では、会社法上必要な手続きを経て行なっ
ているから手続き規制はない。他方、分配可能額を超えた買取として財源規制違反がある(46
1条1項2号)。
2 会社法が上記の通り自己株式取得に厳格な規制を定めている趣旨は特定の株主の優遇によっ
て会社債権者が害されることを防止するためである。そこで財源規制違反がある場合の自己株式
取得は無効であると解する。
本件では分配可能額が800万円であるところ、1000万円という分配可能額を超えた金額の
本件買取が行われている。したがって本件買取は461条1項に違反し無効である。
3 無効の範囲について、分配可能額を超えた200万円部分に該当する部分のみを無効とする
とかえって法的安定性を害するから本件株式の買取自体が無効になると解する。
設問1 小問2
1 Aは、甲社の代表取締役として本件株式の買取を行なったのだから、「当該行為に関する職務
を行なった業務執行者」として、A社に対して本件株式の買取対価1000万円の支払う義務を負い
うる(465条1項2号、465条1項柱書)。たしかにAは、計算書類の作成と分配可能額の計算を自
分で行なっていたが、その基礎となる会計帳簿の作成については直属の部下であるDに任せきりに
していて関与していなかったのだからGにより会計帳簿への記載の失念に気付けなかったことがA
が「注意を怠らなかった」とも言えそうである。しかし、Aは甲社の経理及び財務を担当しており
部下であるGの会計帳簿作成についても管理する立場にある。さらに、Gによる計算書類の誤りは
Bが甲社の預金口座の記録を紹介していた際に気付くことができるようなものだから経理担当のA
が確認していれば気付くことはできたと言える。したがって、注意を怠らなかったとは言えな
い。よってAはA社に対して1000万円を支払う義務を負う。
2 Fは、甲社の監査役)として甲社の業務が法令に違反しないように監査する任務を負っている
(330条、民法644条、381条1項)。本件株式の買取は、461条1項違反という法令違
反だから、Fはその任務を怠ったものとして甲社に対して責任を負うか(423条1項?条文まで書
いたか忘れた)。
Fによる会計監査は、例年会計帳簿が適正に作成されたことを前提として計算書類と会計帳簿の内
容の称号を行うのみであったところ、その書類を作成しているのは代表取締役のAだから、Fが信頼するのも無理はない。さらに監査役は必ずしも会計分野に明るいとは限らない。これらから、Fが書類の適正な作成について疑念を挟むべき事情はなかったといえる。したがってFには任務を
怠ったとはいえず責任は負わない。
3 Dは、本件株式の買取により1000万円の交付を受けたものだから「当該行為により金銭等
の交付を受けたもの」としてA社に対して1000万円の返還義務を負う(462条1項柱書)
設問2
1 Aは、甲社の株式をBCDから取得したことにより、発行済株式1000株のうち900株を保
有する特別支配株主としてEに対して179条1項による株式の売渡請求をしている。
2 Eはかかる売渡請求をやめることの請求をすることが考えられる(179条の7第1項3号)
(1)その理由は、本件でAがEに対して売渡請求をする際の金銭の割り当て(179条の2第1項
3号)が「その他状況に照らして著しく不当である」ことである。
(2)確かに、Eに提示された1株6万円という金額は税理士Hによる客観的な評価を受けた範囲
内の金額であるから不当とは言えないとも思える。しかし、BCDに対する甲社株式の買取は、令
和6年7月31日までに対価は1株10万円で行われ、Eに対する売渡請求は8月27日というBらに対する売渡請求から1ヶ月以内にされている。このような短期間で買取価格が4万円も変わることを正当とするような事情も特にないことからEに対する金銭の割り当てが6万円であることはそ
の他状況に照らして著しく不当であると言える。
(3)さらに、仮に甲社がBらに対して甲社株式を10万円で買取を決定した際に、158条1項
の通知をしていないのであればEに対する不当を基礎付ける事情としてその事情も「その他事情
に」含まれる。
3 よって、Eは上記方法を取るべきである。


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