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ネズミの楽園実験

電車から除く斜陽、窓際の春陽、ビルの隙間から陽が指しこんで、そこから虹がかかり出す。

ただ生きていくことが難しい人だっているのに、どうして人は同じであることを求めるのか。

universe25…ネズミの楽園実験というものがある。これはネズミにとって理想的な環境を与え続けた環境下でネズミはどのような行動を起こすかと言う実験である。
多くの人が予想するようにネズミ達はたちまち自身のとんでもない繁殖力を持ってして、多くの子孫を残し順風満帆に暮らすことになる。ネズミ達がどれだけ増えても構わない、なぜならここはネズミ達にとって餌が尽きることも敵に怯えることもない楽園なのだから。
しかし実験の終盤、ネズミ達は到底人間達の想像のつかない行動を行い出す、まず同性愛や幼児性愛などの兆候を示し出すおかしなネズミ達が現れ出す(勘違いしないで欲しいのだが、同性愛者のことを著作者が異常者だと思っているわけではない、あくまで実験の中で見せるネズミの行動としてのおかしさであることを留意して欲しい。)その後ネズミ達は何に困っているわけではないのに繁殖をやめたり、自殺したり、同族殺しをするようになっていく。そうして衰退していった結果、理想的な環境下であるにも関わらず、ネズミ達は絶滅することになる。

多くを得ることが幸せだとは限らないのだ。
この実験は今の人間社会においても同じことが言えるであろう。また、マズローの欲求段階について強く支持する結果となる実験でもあった。
生理的欲求も、安全の欲求も満たされたのち、人は愛を求め承認を求め、アイデンティティの確立を目指し始める。その結果、生理的欲求を満たすことも難しい野生動物達より恵まれた環境で人々は不幸を感じ、同族を殺し、自殺を繰り返す。

と…いつの間にか対面の席に座っているみゅうが寝ているのに気づいた、ちゃんと電車に乗れたことで安心したのだろう、ここ最近あまり眠れていなかったのもあってか、すっかり熟睡しているように見える。
俺だって男だって言うのに…
信頼されていると喜べばいいのか、好きな子に男として見られてないと落ち込んだらいいのか…などと考えながら、緩み切った顔で寝ているみゅうの倒れそうな姿勢を治す。
それからもう一度本の続きを見ようとしたところで。

ちょっといいですか?


帽子を深く被り直す、表情に出してはいけない。


どう…されました?
あぁいや、少し切符の確認を
あぁ…はい、お願いします。
君たち見たところ中学生くらいだけど、親御さん達はどこかトイレにでもいってるのかな?
あぁ…

肯定しそうになったが、父や母がいるとすればもう一度切符の確認にこの人は回ってくるだろう。ここは…


えっと…祖母が危篤で、父や母は先に実家の…宮崎の方で葬儀の準備をしていて…急なことだったもので…妹と後から追いかける形で…



怪しいのはわかってるが…家族の危篤なんて言われればあまり踏み込んでこないだろう…


…そっか、わかった、気をつけてね。
はい!ありがとうございます。
何か困ったことがあれば前の車両にいるので、お兄さん達にいつでも頼ってね。
あはは…何から何まで、ご心配いただきありがとうございます…
君、若いのに随分しっかりしてるね、これはご両親が妹さんを任せるのにも納得だ。
はは…恐縮です。



胸を撫で下ろす





野生のネズミは僕らを笑うだろうが、愚かしくも僕らは1人のために命を投げ出してしまえるのだ。






おやすみ、しの

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