「カタツムリ」数を減らす雨季の象徴
乾燥に弱いのに
水ギライな陸貝
つくづくカタツムリという生き物に不思議さを感じます。貝の仲間なのに陸生で、二枚貝とは異なる渦巻きの殻を持っています。あのぐるぐるした殻のなかに内臓が詰まっているのですが、その殻は海の貝たちよりも薄いのです。それでいて、あれほどのろのろと動いているので、捕食者からすれば最適なエサ資源ではないでしょうか。
海から陸に進出したカタツムリは肺呼吸をします。なので、貝の仲間でありながら、泳ぐことができず、川を渡っての移動ができないので固有種が多く発生したと考えられています。そして、泳げないほど水を苦手とするのに、乾燥にも弱いときています。どうして海で適応できていたのに陸に進出したのか、謎が尽きません。そうした不思議さもまた、カタツムリの魅力なのかもしれません。
潤いを保つ粘液は
美容製品にも採用
「雨季の象徴」という言葉をこのカタツムリの記事に添えましたが、じつはカタツムリは、雨季のみならず1年中みられる生き物です。先述した通り、カタツムリは乾燥に弱いため、雨の多い時季に観察しやすくなるというだけで、涼しい時間帯では雨季でなくても探せばみつかることも多々あります。ただ冬場に関しては、特定の場所に集まって冬眠する性質があるため、その冬眠場所をうまくみつけなければ観察が難しいそうです。
湿度が低く乾燥が気になる季節は、あの薄い殻にこもって耐えるようです。ですが、空気が特別乾燥していなくても、殻から出ている間は空気にさらされるため、常にカタツムリの体からは水分が失われています。
そこで、カタツムリはぬめりのある粘液を分泌して、体の潤いをキープするようにしています。この粘液は保湿効果が優れているそうで、カタツムリの成分を採用した保湿クリームなども製品化されています。カタツムリの粘液成分のクリーム、と聞くと、私はちょっと微妙な印象を感じたのですが、陸貝の体はほんとうにデリケートらしく、専門家も肌の保湿用という着眼点は評価しているようです。
「でんでんむし」が
みられなくなる懸念
この記事を読んでいただいているあなたは、最近カタツムリをみたでしょうか。近年、カタツムリが減少しているのではないか、と懸念されています。都市化ではコンクリートやアスファルトが増え、風通しがよくなった分、乾燥化も進みました。また落ち葉の清掃にブロワーという送風機を活用する場面もよく目にするようになり、乾燥に弱いカタツムリにとっては暮らしづらくなっているようです。
カタツムリは移動能力が低い分、固有種がたくさんいる生き物です。なので、もしカタツムリに出合ったら、それはもしかすると、その土地固有の特別なカタツムリかもしれません。そうした身近な生き物も「もしかすると特別なのかも……」という気持ちで接することができれば、カタツムリたちにとって住みやすい環境も、自ずと守られて行くような気がします。デリケートなカタツムリでも生きやすい空間は、いくらあってもいいですよね。
参考文献
・脇司『カタツムリ・ナメクジの愛し方』ベレ出版 2020年
・梅雨なのにいない? あの「陸貝」はどこへ 毎日新聞2024年6月6日
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