
「ニホンヤモリ」忍(しのび)に似ているゲッコー
「乾燥接着」で家内の
窓や壁に張りつき移動
夏虫が窓に張りついてきたり、家内まで侵入してくる季節になると、よくニホンヤモリをみかけます。窓ガラスをペタペタと歩きながら、俊敏な動きで夏虫をパクリ、と食べる様子は、小柄ながら迫力ある光景だと毎回思います。



ヤモリは壁を登るのに、足の裏に生えている微小な毛を使います。この毛はさらに細かく枝分かれした構造をしており、接地面(壁や窓ガラス)と毛の間に微力な引力(ファンデルワールス力)を発生させてるそうです。この毛はヤモリ自身の意志で角度をつけられるらしく、接地面から足を離す際には、毛の角度を変えて吸着を弱めているそうです。ツメや粘液を使わないこの接着のことを「乾燥接着」と呼びます。
学名に「ジャポニクス」
日本を代表する爬虫類
夜に夏虫を捕食したり、窓枠で身を潜ませていたり、窓ガラスに張りついて移動したりと、まるで忍者のようなニホンヤモリ。その学名は「Gekko japonicus(ゲッコー・ジャポニクス)」で「日本のヤモリ」を意味します。

名前の通り全国各地でみられる、と思ったのですが、じつは本州から四国、九州にかけて分布するようで、北海道などでは基本的にみられないそうです。「基本的に」とわざわざ記述したのは、2003年に大阪市立自然史博物館が報告した、アンケートによるニホンヤモリの分布調査にて、北海道浦賀町にて生息確認が報告されているからです。実際にどこまでニホンヤモリが生息しているのかよくわからない、このミステリアスさも忍びの者らしさを感じます。
縄文時代に中国から
人流などに乗って侵入
学名に日本を意味する言葉が用いられているニホンヤモリ。じつは縄文時代に中国から侵入した外来種であることがわかっています。これは東北大の研究チームがニホンヤモリと中国のヤモリの遺伝情報を比べて解析して判明したことで、中国から九州に侵入し、平安時代までにさまざまな経路で近畿まで進出したそうです。そこから江戸時代以降に関東まで分布したそうで、これらの拡大ルートは複数の古文書の記述とも合致しているそうです。

研究を主導した専門家によると、現代の外来種と同様に、ニホンヤモリもまた人の移動や物流を通じて日本に入ってきて、分布を拡大させていったとのこと。となると、ヤモリは壁や窓ガラスだけでなく、人にもくっついていたということになりますね。人知れず人の影をついて回って、勢力を拡大させていく。やっぱり、どこか忍者っぽさがある生き物だと感じます。
参考文献
・川添宣広(著)『見分けられる! 種類がわかる! のほんの爬虫類・両生類 生態図鑑』誠文堂新光社 2018年
・大阪市立自然史博物館(2003)「日本の家屋に生息するヤモリの分布調査ーヤモリアンケートの結果報告ー」自然史研究VOL3,No2
・外来種、人の移動とともに世界に広がる…国立環境研究所 五箇公一氏 読売新聞2023年4月22日
・「ヤモリ、足裏の吸着と解除のしくみ解明」ナショナルジオグラフィック2014年8月13日配信https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/9585/
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