ニワトリの生まれはアジアのどこなのか
国鳥より馴染み深い
キジ目キジ科の家禽
日本の国鳥はキジですが、奇しくもこのキジと同グループに属するキジ目キジ科の家禽・ニワトリのほうが、わたしたちの生活に馴染み深いでしょう。鶏肉、鶏卵、若冲の作品など、食文化でも芸術面でもニワトリの存在感はわが国に浸透しています。
今回はそんな鳥の歴史を少し遡ってみようと思います。人とニワトリの歴史はかなり果てしなく、そのすべてを語るにはかなりの時間を要しますので、今回はかなり凝縮してお届けします。
セキショクヤケイを
品種改良し誕生した
ニワトリの祖先ともいうべき種に「セキショクヤケイ」という鳥がいます。セキショクヤケイは中国南部からインドシナ半島、マレー半島、インドネシア島嶼部までアジア圏の広い範囲で生息している鳥類で、この鳥を品種改良した結果生まれたのがニワトリです。このセキショクヤケイがニワトリと比べてどう違うのかなどは、また別の記事で紹介しようと思います。
アジア広域で確認されるセキショクヤケイ。いったいどの地域で最初のニワトリが生まれたのでしょうか。考古学の分野でみると、発掘された最古のニワトリの骨は、中国北部の遺跡で発見されています。この骨は4000〜5000年前のもとされており、この頃にはニワトリが利用されていたと推察できます。
ですが、遺伝子でみると、家禽化初期の現場はインドシナ半島であると示していたそうです。ニワトリの起源は、中国か、インドシナ半島か。じつはどちらも違って、8000〜9000年くらい前のタイ付近で、最初のニワトリが生まれたとされています。そこから人によって運ばれて、中国にまでわたったそうです。ただ、これらはまだ確定的なものではなく、DNA配列を調べた結果インドではないか、という説も存在しています。現在も引き続き、ニワトリの起源についての研究が進められているそうです。
日本には食用でなく
観賞目的で渡来した
セキショクヤケイは日本には生息していない鳥です。では、日本で最初にニワトリがわたってきたのは、どこなのでしょうか。奈良県の唐子・鍵遺跡にて、2000〜2400年前のニワトリの骨が発掘されています。これは日本最古のニワトリの骨とされており、少なくとも弥生時代にはニワトリが日本に入ってきている証拠となります。
じつはこの日本最古のニワトリの骨、長崎の壱岐や福岡、大阪、愛知などの同時代の遺跡にて複数発掘されているのですが、いずれもほとんどがオス個体の骨だったそうです。卵利用するならメス個体の骨もたくさんみつかってもおかしくないですが、これは食利用のためのニワトリではなく、観賞用だったことが推察されています。日本におけるニワトリの歴史は、食利用ではなく鑑賞用から始まったそうです。若冲が目をつけるよりもずっと昔に、ニワトリは鑑賞の対象として扱われていたのです。
都市化が進んだ今、養鶏場どころかニワトリを飼っている家庭をみかける機会もかなり減りました。なので、ニワトリをじっくり観察する機会は貴重だと感じます。もし、ニワトリをみる機会がありましたら、一度じっくりその姿を観察してみてください。赤く立派なトサカや肉ひだからは、なんともいえない生物感が漂っていて、生々しい「生命」が感じられます。もしかするとこの生命感が、昔の人々を魅了していたのかもしれません。
参考文献
・遠藤秀紀『ニワトリ 愛を独り占めした鳥』光文社新書 2010年
・川上和人『鳥肉以上、鳥学未満。』岩波書店 2019年