「柏の葉」神に捧げる天然の器
「柏もち」なのに
葉のなかに「よもぎもち」
こどもの日のお馴染みといえば、鯉のぼり、新聞紙で折った兜、そして柏もちが挙げられるでしょう。晩春特有の清涼な空気を感じながら食べる、よもぎの風味と柏の葉の薬味に似たさわやかさ、そしてほっこりするあんこの甘味。幼少の頃からこの柏もちが、私は大好きでした。
ずっと思っていたのですが、もちをくるんでいる葉は柏の葉ですが、くるまれているもちに使われているのは、よもぎです。これは矛盾していないでしょうか? 気になったので、少し調べてみることにしました。
5月=「悪月」の考えから
よもぎが邪気ばらいに使用
柏もちの定義ですが、そもそも私の解釈が間違っていたようです。柏もちとは、必ずしも「よもぎもち」を「柏の葉」でくるんだもの、というわけではないようでした。これは地方によるようですが、よもぎが入っていない、あんこ入りの白いおもちを柏の葉でくるんでも「柏もち」と呼ぶようです。幼少の頃からずっと、柏もち=柏の葉っぱでくるんだよもぎもち、という印象でしたので、ちょっと驚きです。
ただ、歴史的にみれば、5月によもぎを取り入れること自体、意味があるようです。古人たちは5月を病気や食べ物事情を含め人が住みにくい状況になる「悪月」と呼び、端午の節句に病除けや毒除けの意味がある菖蒲やよもぎを食べ、邪気ばらいをしたとされています。
柏=堅し葉の意味で
カシワとは限らない
この5月によもぎが食べられる理由はわかりましたが、なぜ柏の葉が用いられるようになったのでしょうか。柏の葉に焦点を当て直して調べると、そもそも柏もちに使われる葉っぱは柏の葉に限らないそうです。
古代では「柏」とは「炊(かし)ぐ葉」「堅し葉」を意味する葉っぱだったそうです。これらはいわゆる神様に備える食べ物を盛るための葉っぱであり、現代のカシワ(Quercus dentata)ではないそうです。実際にカシワの葉が入手しづらい地域ではサルトリイバラ(Smilax china)の葉でくるんだもちが柏もちとして扱われているそうです。
5月病なんて呼ばれるものが気になる季節。古人たちが邪気ばらいに使ったよもぎもちと、神様に備えたとされる柏の葉の力を借りて、この連休を元気で健やかに過ごしたいと、改めて感じた次第です。
参考文献
・高澤等『神紋でたどる神様と神社のお詣り図鑑』二見書房 2023年
・舘野美鈴、大久保洋子(2012)「葉利用菓子の食文化研究」実践女子大学 生活科学部紀要 第49号 P33-43
・「柏餅はなぜ葉っぱで包まれてる?柏じゃない葉っぱも使われていた」読売新聞 2024年5月2日