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「ヒガンバナ」秋に咲く有毒の鮮紅

土葬された遺体を守る
「死人花」の活用方法

 開花したその植物をみるたびに、わたしは「秋」と「死」を連想します。放射状に吹き出した鮮血のような色味と花弁の広がり。華やかさより不気味さが勝るヒガンバナは、かつて「死人花」や「地獄花」とも呼ばれていたこともあるそうで、あまり人家には植えられなかったそうです。

 その不吉な別名を裏付けるように、ヒガンバナの球根には「リコリン」というアルカロイド成分の毒が含まれており、暗殺や毒殺に用いられた歴史もあります。半面、その毒を利用して、墓場などにヒガンバナを植えることで、野生動物から土葬された遺体を荒らされず守ることができたそうです。

道端で咲いていたヒガンバナ

かつては民間薬として
肩こりやむくみを解消

 ヒガンバナには動物避け以外にも、民間薬として利用されていた歴史があります。有毒であるはずの球根をすりおろし、ガーゼに包んで患部に塗ったり、両足の土踏まずに貼ることで、肩こりやむくみの解消に効果が期待されたとのこと。このほかにも、乳腺炎や腫れ物に対し、球根がすりおろされたものが活用されたそうです。

 個人的には、有毒であるものをそのように利用して逆に悪化しないのか心配になりますが、毒も使い方次第で薬になるということなのでしょうか。上記の内容はあくまで過去のことで、現在ではヒガンバナを薬用として用いることは少なくなっているとのことです。

じつは非常食にも活用
分類はタマネギと同じ

 有毒であるはずのヒガンバナですが、じつは飢饉時の非常食として活用された歴史もあります。ヒガンバナを臼でついて水にさらし、毒抜きすると、デンプン質が沈殿するようで、肥前ではそれを「ドクスミラ」と呼んでいたそうです。

 ちなみにこのヒガンバナ、分類上はタマネギと同じ「ヒガンバナ科」となります。タマネギはユリ科に分類されていた時期もあるのですが、DNAを用いた新たな分類法によってヒガンバナ科となったとのこと。

ヒガンバナ科のタマネギ

 食材としてメジャーな野菜と同類だと思うと、ヒガンバナが食べられるのもなんとなく納得できそうです。これからは料理にタマネギを使用するときに、ふとヒガンバナのことを思い出しそうで、食べることに困らず料理ができていることに感謝したいとしみじみ思います。

参考文献
・(公社)富山県薬剤師会広報誌『富藥 第39巻 9号』2017年
・近畿大学薬学部 薬用植物園「四季便りvol.13」2011年
・「成長遅め、なぜか分裂」朝日新聞2019年4月19日

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