「クマゼミ」関西で覇権を奪ったセミ
「ミンミン」鳴かない
夏の西日本の代表種
セミの声と聞くと、みなさんはどんな声を想像するでしょうか。じつは、私はあまり「ミンミン」と鳴くセミに出合ったことがありません。もちろん「ミーンミンミンミー」と鳴いている声は聞いたことはあるのですが、たとえばセミ捕りをしているときに捕まえるセミは、大体「シャー、シャー」と鳴いているものだったり、「ジーィ、ジーィ」と鳴いたりするセミばかりでした。
調べてみると、「ミンミン」と鳴くセミは文字通り「ミンミンゼミ」という種で、こちらは東日本に多く生息するそうです。そして、私がいる西日本では、「クマゼミ」が多いそうです。場所によって夏の風物詩の声に微妙な差があるようです。
オスの腹部には発音筋
メス誘因のため大音量
セミのあの大音量は、いったいどのようにして生まれるのでしょうか。セミは「発音筋」と呼ばれる筋肉を使い、左右にある発音膜を振動させて音を発します。
その大音量は、メスを誘因することをおもな目的としています。近年の研究では羽化から一ヶ月以上生き延びることも珍しくないとされていますが、限られた期間内に子孫を残すため、オスたちは鳴いているのです。体を震わせて愛を叫ぶ生き物。そう思うと、セミがなんだかロマンティックな存在に感じられます。
1980年代に勢力拡大
温暖化などを後押しに
現在関西ではクマゼミが多く確認されますが、じつは1980年以前はクマゼミよりもアブラゼミの方が多く生息していました。アブラゼミは「油物を揚げている時の音に鳴き声が似ている」からその名がついたとされ、「ジーィ、ジーィ」や「ジー、ジリジリ」などと鳴きます。今も昔も、関西でセミの声といえば「ミンミン」ではなかったようです。
なぜ、1980年にクマゼミが増えだしたのでしょうか。その要因として都市化と温暖化が指摘されています。翅脈はクマゼミもアブラゼミも黄緑色ですが、前者は翅のベースが透明なのに対し、後者は茶色です。樹木の幹に似た体色のアブラゼミは森林では身を隠すのに有利ですが、都市部ではそうでもないようです。大阪市内では、クマゼミよりもアブラゼミの方が多く捕食されてバラバラになった姿が目撃されているとのこと。
またある研究者は、「カラスなどの捕食者に襲われた際、クマゼミは遠くの木立まで逃げるのに対し、アブラゼミはすぐ隣の木に避難する」と指摘しています。アブラゼミの行動は、自らの体色が木の保護色となると期待してのものではないでしょうか。
また都市部の公園は、枯れ葉が取り除かれている場合が多く、乾燥して土が硬質になります。クマゼミの幼虫はアブラゼミの幼虫より土を掘る能力が高く、アリなどの天敵から逃れられる確率が高くなります。加えて温暖化により孵化時期の早まりなども重なって、都市化の進んだ現代ではクマゼミが多くみられるようになったそうです。
セミの合唱は、極暑でくたびれた体には少し忌まわしいところもあるかもしれません。ですが、その声をよく聞き分けてみると、「ミンミン」ではないさまざまな声が入り混じっていることでしょう。もしかすると、その声はあなたが住む地域の覇権を奪った、王者の勝ち鬨なのかもしれません。
参考文献
・税所康正(著)『セミ ハンドブック』文一総合出版 2019年
・関西のセミ「ミンミン」鳴かない? 種類や分布に地域差 とことん調査 2021年6月1日