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コウノトリは減り、アオサギは増えた理由を個人的に考えてみた

野生絶滅した瑞鳥が
野外個体数450羽に

 兵庫県豊岡市の「県立コウノトリ郷公園」が2024年9月、同年のコウノトリの繁殖について、7月までに14の府県で105羽ものヒナが巣立ったと発表しました。コウノトリは一部地域で「瑞鳥」と信仰されていた特別天然記念物の鳥。このヒナの巣立ちにより、現在日本全国のコウノトリの野外個体数は450羽となりました。

飛翔するコウノトリ

 じつはこのコウノトリ、一度は日本国内で野生絶滅した鳥の1種でした。その日本最後の野生個体は1971年に捕獲・保護されましたが、そのときには右翼の骨折や左胸部の腫瘍がみられ、目は重度の貧血症状が表れていたそうです。手当のかいもなく、最後の野生個体であるコウノトリは死亡してしまったのですが、その遺体を解剖すると、DDT(ジクロロジフェニルトリクロロエタン)の分解物が高い値で検出され、農薬による強い影響が明らかとなりました。

 同市では1960年代からコウノトリ保護のための施設が新設されたり、繁殖貸与(ブリーディングローン)で国内の飼育個体と海外の個体をつがいにする試みが行われたり、人工育雛が進められたりと、コウノトリの個体数増加に寄与してきました。コウノトリが野生に復活した現在も、引き続き調査や啓発活動などが積極的に続けられています。

1980年代にコロニー急増
北海道内のアオサギの謎

 豊岡市でコウノトリの繁殖貸与が進められていた1980年代。北海道ではアオサギのコロニーの急増が報告されていました。コロニーとは、サギ類などの鳥類が繁殖などのために群れを形成する場所を示す用語で、カワウやコアジサシといった水辺の野鳥で確認される印象があります。

飛翔するアオサギ

 1960年代から2000年代の北海道内におけるコロニー数のデータをみると、1980年から1990年代では3倍以上の増加率を誇り、1980年代の途中からは道北や道南など空白地域だった場所にもコロニーが分布するようになったそうです。

アオサギの剥製
(2018年、大阪自然史博物館にて撮影)

 なぜ、これほどに増加したのでしょうか。報告書にはアオサギの生息数増加の原因についても述べられており、水田に使用される農薬の毒性低減によりエサとなる生物が増加した、温暖化により水面の解氷時期が早まって春先の餌場が増加した、といった要因が述べられています。

相性不一致なら攻撃も
気性の激しさが要因か

 人為的に増やそうとしてもなかなか増えなかったコウノトリと、自然と増えたアオサギ。双方とも魚や水棲生物を好む大型鳥類なのに、この差はなにに起因するのでしょうか。コウノトリとアオサギの生態の違いから、私なりに考えてみました。

 まずは営巣環境を考えてみます。コウノトリは高い松に巣をつくることが知られており、太平洋戦争で松根油(松から抽出される油)採取のために数多くの松木を伐採したことが、絶滅の要因のひとつといわれています。

コウノトリの巣の実物大模型
(2017年、兵庫県立人と自然の博物館にて撮影)

 アオサギもまた樹上に巣をつくります。見通しのよい一定面積以上の林であることがアオサギの営巣条件とされていますが、北海道・岩見沢では農業用のため池のような場所で水上営巣のような巣が確認されています。こうした営巣の柔軟性も無関係ではないでしょう。

 あとは体もアオサギよりもコウノトリのほうが大きいことから、必要とするエサの量も違いが生じ、それが個体数増減に少なからず関係するのではないでしょうか。ですが、個人的に一番関係が深いと考えているのが、つがい形成の面です。先述した通り、アオサギは繁殖のためコロニーを形成するのですが、コウノトリはそれを形成しません。

 加えてコウノトリは相当慎重にパートナーを選ぶ性質があるらしく、繁殖貸与を繰り返してもなかなかつがい形成をしなかったと記録されています。それどころか、1962年にはつがい形成を狙って同居させたメスのコウノトリが、オス個体をくちばしで何度も突き刺し、貴重だった1羽をあやめてしまう事態が発生したほどです。

コウノトリの剥製
(2017年、兵庫県立人と自然の博物館にて撮影)

 現在、日本の自然に戻ったコウノトリたちは、着実につがい形成を進め、その個体数を増やしています。ですが、また人為的要因などでわずかでも減少傾向になったとしたら、あっという間にまた絶滅寸前にまで追い詰められる予感がします。せっかく復活した生命をまた危ぶめてしまわないように、今ある自然をたいせつに守っていきたいですね。

参考文献
・コウノトリ繁殖状況、7月末までに105羽巣立つ 24年、兵庫はうち40羽 神戸新聞NEXT 2024年9月6日
・加藤紀子『コウノトリ 大空に帰る日へ』神戸新聞総合出版センター 2002年
・杉坂学『色と大きさでわかる 野鳥観察図鑑』成美堂出版 2003年
・松永克利「北海道におけるアオサギの生息状況に関する報告」北海道アオサギ研究会 2005年
・アオサギの巣はどこに?「アオサギ観察会」北海道アオサギ研究会 2013年

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