怒気を避ける人生
人それぞれ、苦手な環境や空気感というものがある。
張り詰めた真面目な空気が苦手な人、おちゃらけた空気が苦手な人...。
本当に十人十色だ。
◇◇◇
僕はそれなりに、どんな空気にも対応するほうだとおもう。
でも、これだけは苦手だという空気はある。
それは、怒気だ。
僕は怒られるのが嫌いだ。
そりゃ誰でも嫌いだと思うが、たぶん僕は人並外れて嫌いだ。
怒気にあてられると、焦って何も考えられなくなるし、震えが止まらなくなる。
だからこそ、自分が怒ることもない。
怒ったという記憶が、自分の中に存在しない。
理由は定かではないが、赤ん坊のころに父親がキレる姿をたびたび見ていたからではないかなと、失礼ながら思っている。
念のためことわっておくと、僕は家族と不仲ではない。
父親のことも好きだし、今でも仲が良い。
20代も中盤となった今、さすがに怒られることはない。
でも昔は、いつ怒られるかわからないというプレッシャーを感じていたことはなんとなく覚えている。
回数で言えば、直接怒られたことは片手で数えられるほどなのだが…。
◇◇◇
しかし、父が母と喧嘩をしていた光景は、実は今でも鮮明に覚えている。
おそらく2、3歳のときの記憶だ。
どの家庭でも起こりうる夫婦喧嘩といえばそれまでかもしれないが、僕はそのころから怒気に敏感だったのだろう。
そして、それが自分に向かないように必死だったのだろう。
小学生の頃の僕は、怒られないよう、良い子でいることに必死だった。
周囲のいたずらっ子は、先生に怒られた数秒後、ケロッとして廊下を逃げるように走り始める。
子どもながらに、なんで怒られてあんなに元気なんだろうと不思議に思っていた。
上司に怒られても動じない、という友人がたくさんいる。
そういう友人は昔から、怒気を受け流すのが得意だったのだろうか。
はたまた、怒られ続けて慣れていったのだろうか。
◇◇◇
しかし、どんなに頑張っても怒られる時期があった。
それは小学生のころ、スポーツチームに所属していた時期だ。
指導員が、鬼のように怖かったのである。
しかも、スポーツだからしたくなくてもミスはする。
チームスポーツだったので、自分がミスをすると全員怒られる。
時には、自分のせいで全員げんこつを食らうこともあった。
それで怒られると、ミスしないように意識しすぎて、さらにミスをする。
スポーツ選手がミスを連発する姿をみると、今でもあの頃の気持ちを思い出す。
◇◇◇
僕が会社で働くことに抵抗があった一因として、このスポーツチームでの記憶があった。
「理不尽なことで怒られたり詰められたりするのはけっこうあるね」
と、周囲の働く大人は口をそろえて言う。
それを聞くだけで、なんとも憂鬱な気持ちになった。
そして、続けてこうも言う。
「うるせーーー!!しらねーーー!!…って思いながら詰められてるよ(笑)」
僕はこれができない。
全部、真に受けてしまうのである。
これができる人は本当にうらやましい。
怒られた記憶は、数か月頭から離れない。
というか、赤ん坊のころのことを覚えているのだから、何十年、下手すると死ぬまで忘れない。
◇◇◇
社会人だったらそれくらい当たり前だろ!甘えんな!
と、言われてしまうかもしれない。
確かにそうだ。
どこかで辛いことを取らないと、生きていくのはなかなか難しい。
だから僕は、「自己責任」という辛さをとった。
個人で仕事を探している今の僕には毎月決まった額の収入がないし、「会社員」という社会的な立場もない。
たしかに、決まった収入がなく全てが自分次第といった今の状況は、見方によっては辛いのかもしれない。
でも、理不尽に怒られたり、自分のミスで他人に迷惑をかけてしまう緊張感をもって過ごすほうが、もっと嫌だった。
実際、今の僕はとてもいきいきしている。
幼少期のように、だれかの顔色をうかがって委縮してしまうこともない。
正直、自分が組織の中で自分らしさを発揮できるかと聞かれたら、
「多分できない」
と答える。
決めつけるのはよくないかもしれないが、それくらい委縮するのが目に見えている。
こんな文章を書いているのも、今、ライターとして個人でのびのびやっているからだと思う。
なんというか、今の環境は、感性やインスピレーションが研ぎ澄まされる。
◇◇◇
話が脱線してしまったが、とにかく僕は怒られるのが嫌いだし、怒気がうまれやすい環境を避けている。
避けるといっても、そのぶん自分で頑張らなきゃいけないことは当然出てくる。
でも、僕は自分の頑張れるところで頑張ればいいと思っている。
個人で活動し始めた昨年、それを改めて感じた。
自分の輝ける環境を探し、それを得るために行動するのは大変なことだ。
うまくいくか、うまくいかないかは今もわからない。
でも、この経験がかけがえのない宝物として、僕の中に残ることだけは一生変わることのない事実だ。
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