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印鑑登録証明書(印鑑証明書)の有効期限

不動産の売買や遺産分割協議の際に、印鑑登録証明書(印鑑証明書)は良く用いられます。また、企業も本人確認方法の一つとして印鑑登録証明書を使用することがあり、預金口座や証券口座を開設する際に印鑑登録証明書を提出した経験のある方も少なからずいらっしゃると思います。
この場合、提出を求める企業として少々悩ましいのが、「どの程度新しい印鑑登録証明書の提出を求めるべきか」という点かと思います。
直近に発行されたものであれば良いのは当然ですが、例えば5か月前に発行されたものでも良いのか、そもそも印鑑登録証明書に有効期限があるのかといった点について、法令の定めを参照しながらご説明したいと思います。

1. 印鑑登録証明書とは

まず、「印鑑証明書」とは、

印影が、あらかじめ届け出てある印鑑と同一であることを証明する官公署の書面。文書の作成者が本人と相違ないことを証明するために、公正証書の作成のような重要な行為に必要とされる。通常、市区町村長が条例や慣例に従って交付している。

法令用語研究会編『法律用語辞典[第5版]』(有斐閣、2020年)40頁

と説明されています。一般に、市区町村長が交付する証明書は「印鑑登録証明書」と呼ばれ、商業登記法12条1項に基づく「印鑑証明書」とは区別されますので、以下では「印鑑登録証明書」と記載することにします。

「条例や慣例に従って」という点が面白く、実は、印鑑登録証明書の作成権限や義務を直接定めた法律はありません。印鑑登録証明書の作成要領は行政の通達に依拠しており、具体的には、総務省(旧自治省)が「印鑑登録事務処理要領」という規程を設け、必要登録事項や印鑑登録証の記載事項、印鑑登録証明書の交付方法について定めています。特に、印鑑登録証明書は「文書の作成者が本人と相違ないことを証明するため」の書面なので、印鑑の登録をした本人以外の者が交付を受けられないようにする仕組みが確保されています。

そして、各自治体ではそれぞれ「印鑑条例」や「印鑑の登録及び証明に関する条例」を制定し、印鑑登録原票の管理や印鑑登録証明書の発行に関する具体手続を定めています。
ご参考:
深川市印鑑条例(北海道深川市)
港区印鑑条例港区印鑑条例施行規則(東京都港区)

2. 印鑑登録証明書の有効期限

以上のとおり、印鑑登録証明書はあくまで市区町村長が条例に基づいて発行する証明書なので、法律に基づく一般的な有効期限は設けられていません。もっとも、発行日から何年も経過してしまうと、「文書の作成者が本人と相違ないことを証明する」という本来の目的との関係で意味があるのか怪しくなってきますし、途中で登録印(印影)が変更されることもあると思います。そこで、法令では、印鑑登録証明書が要求される場面ごとに、
「作成後●月以内のもの」
という形でその期限が区切られています。

具体的には、以下のとおりです。

1. 作成後3か月以内のもの

  • 不動産登記令16条3項、18条3項:不動産に関する登記の申請をする場合

  • 自動車登録令16条3項、17条4項:自動車に関する登録の申請をする場合

  • 企業担保登記登録令8条3項:企業担保権に関する登記の申請をする場合

  • 組合等登記令26条22項3号:生産森林組合が解散登記の申請をする場合

  • 公共施設等運営権登録令施行規則24条3項、26条2項:公共施設等運営権に関する登録の申請をする場合

  • 樹木採取権登録令施行規則24条3項、26条3項:樹木採取権に関する登録の申請をする場合

  • 中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律施行規則3条2項1号:事業用資産に関する遺留分の算定に係る合意について経済産業大臣の確認を申請する場合

2. 作成後6か月以内のもの

  • 健康保険法施行規則155条の4第2項2号:匿名診療等関連情報の提供を申し出る場合

  • 航空法施行規則236条の3第2項1号イ、3号:無人航空機の登録の申請をする場合

  • 個人情報の保護に関する法律施行規則54条4項2号:行政機関等匿名加工情報をその用に供して行う事業に関する提案を行う場合

  • 統計法施行規則8条2項2号:調査票情報の提供の依頼を申し出る場合

  • 犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律施行規則18条2号:被害回復分配金の支払を申請する場合

  • 犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則7条1号ハ、同号ニ、2号イ:本人確認書類として使用する場合

  • 犯罪被害財産等による被害回復給付金の支給に関する法律施行規則9条2号:被害回復給付金の支給を申請する場合

  • 高齢者の医療の確保に関する法律施行規則5条の5第2項2号:匿名医療保険等関連情報の提供を申し出る場合

  • 携帯音声通信事業者による契約者等の本人確認等及び携帯音声通信役務の不正な利用の防止に関する法律施行規則5条1項1号ニ、2号イ:本人確認書類として使用する場合

  • 介護保険法施行規則140条の72の9第2項2号:匿名介護保険等関連情報の提供を受けようとする場合

  • 外国為替に関する省令別表1号ハ、ニ:本人確認書類

このようにまとめると、

  • 登記や登録に当たって権利義務の主体を確認する場合:3か月以内

  • 申請や申出に当たって本人確認書類として使用する場合:6か月以内

という基準で運用されているようです。
したがいまして、お客様に印鑑登録証明書の提出を求める場合でも、本人確認書類として使用する目的であれば、概ね6か月以内に作成されたものの提出を求めれば良いのではないでしょうか。


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