「Dream」短編
「人間の無駄な動き。合理的ではない動き。など。このロボットは、それらを省いた新たな人工知能であり、あなたを助けてくれるでしょう……」
目の前に映し出されたホログラムの中で喋る小綺麗な老人。そう僕は、AIが載ったロボットを買った。どこから買ったかは言えないように契約されていた。お金だけはたんまりあるから別に手に入りさえすればなんでもいい。
ひとしきり老人のしゃべくりが続いた後、そのロボットの首の後ろに専用の薄いチップを差し込む。ロボットは、中性的な顔立ちと体つきで、一見するとロボットとはわからないくらい人間ぽい。すべての配置と比率は完璧だった。社会の誰からも文句を言われない。まさに無駄の省かれた存在だ。
そのロボットは、チップが差し込まれて数秒の後、仰向けから起き上がる。朝、眼をこすり、まとまらない思考と固まった身体を起動するために伸びをする。そんな人間みたいな起き上がり方ではない。
一切無駄のない、人間がいち早く起き上がるための動きをする。開かれた眼の奥から一つの命が起動した。
〇
ここ3日、私は、夢を見るようになった。すぐに忘れてしまうが、何か夢を見る。3日前まで一切、人間だけが見るというその夢を、私が見ることは無かった。完璧であるから。この現象の理由として考えられることは、いくつかあるが、有力なのは、3日前の正午のあのニュースだと考える。それ以外に考えられる要素はない。買い物に行った後、メンテナンスに行かなければ。
私の主人は、私のこの不具合に気づいていないのだろう。いや、気づいているのかもしれない。私は、顔色や動き方だけで、人が心に抱えているものが分かる気でいたが、分からないものだ。人間が何を考えているかなんて。そうプログラムされているはずなのだが。
〇
ここ最近、うちのロボットが夢でも見ているかのようにうなされている。
そう、その日はパチッと目が覚めた。外は暗かったけど、僕は何かを察知して目覚めた。買ったAIロボットが不具合を起こしていた。
というのも、スリープ状態のはずが、眠りながら苦しげな顔をして呻いていたんだ。人工知能に夢なんてモノがあるのかと思った。けどその表情は、人間が悪夢を見てうなされている状態そのものだった。
数分で何事もなかったかのように収まり、今では、何事もなかったかのように普通に動いている。完璧に無駄のない動きで。
メンテナンスに出した方がいいのかな。人工知能って本当に夢を見るんだろうか。こんなこと、うなされてた本人は分からないんだろうな。夢の内容なんて人間の僕でも覚えてないし、そもそもロボットが夢を見るかどうかも分からないし。人間かロボットか分からないくらい人間っぽいし。いつもと変わらないあの様子じゃわかってないんだろうな。
〇
「えー、昨日未明、市内のアパートで1体のAIロボットが破壊、一人の人間が殺害されているのが近隣の住民により発見されました。現場からは、生体反応が一切検出されておらず、ロボットの犯行である可能性が高いと見られています。捜査関係者によると、ロボットか人間の犯行か、一人か複数かもまだ断定できないが、どちらであっても許される行為ではない。としています。この事件は、2101年に、人道人工知能に関する議定書が採択されて以来、初のロボットによる殺人事件になる可能性があ
『おそれいりますが そのまましばらく お待ちください』
〇
「人間の無駄な動き。合理的ではない動き。など。このロボットは、それらを省いた新たな人工知能であり、あなたを助けてくれるでしょう。搭載された人工知能は、私たちの英知の結晶。神が創りし人間に最も近いものであり、あなたの最高のパートナーとなるでしょう。そして人間には一切危害を加えることはありません。私たちのプログラムは絶対です。議定書は、私たちが定めたのですから。
To be continued…かも?