光 最終話
公園でパパっと曲を作るつもりが、気づけば二人で大笑いしながら歌っていた。この少年、驚くほど歌がうまい。
歌詞をなぞるんじゃなく、歌と一緒に踊っているような、愉快な歌い方をする。楽しくて大笑いしてしまう、幸せな歌声。まっすぐな夢と、なんら遜色ない眩しいほどのまっすぐな声。無邪気で無垢な少年の歌。
歌いながら、学校での思い出、好きな人、母親の事、父親の事、すべての思い出を語ってくれた。その時間には、不安のふの字も存在しなかった。
ただただ愉快な時間、少年が歌い語り、シンガーソングライターは、ギターをかき鳴らしながら、時には五線譜に点を打ち、時には少年と歌を歌う。そして歌詞と願いを頭に刻む。片手間で完成させた卒業ソング。先生が伴奏してくれるだろうと、少年に楽譜と歌詞を書いた紙を渡した。
「ギターはまた今度な」
「あ、忘れてた。歌うのが楽しかったから」
「少年。めっちゃ歌上手いな」
「お兄さんも上手かった」
「絶対、もっと上手になる。歌うの楽しいだろ」
「今までで一番楽しかった。人と歌うのってこんな楽しかったんだね。高校でもこんな感じでできるかな」
「できる。少年の声はな、一番だよ」
少年は渡した楽譜と歌詞カードをぎゅっと抱きしめ
「ありがとう」
夕日よりも眩しい、そして寂しい顔でそう言った。
もう会うことは無いだろう。絶対にとは言い切れないけど。
なぜか会ってすぐの少年と歌って曲まで作って、別れを惜しむのが不思議なくらい。夢よりも不思議な出会い。少年も多分察したのだろう。
「それじゃあ、帰るね。もう暗くなってきてるし」
「そうだな。神隠しに合わないようにすぐ帰れよー」
「うん。それじゃ、またね」
少年は、帽子を深くかぶり、俯いて帰っていった。
〇
公園は思ったより広かった。入ってすぐ少年と歌い始めたものだから、公園の様子なんて見る暇はなかった。ギターをしまい。ベンチに寝転がって空を見上げる。すっかり夜の暗い空。いつまでたっても変わることのない星空。いくら西に来たって何一つ変わりやしない。
本当に不思議な出会いだった。幻だと言われても信じてしまう。愉快で幸せな思い出と歌詞が頭に刻まれている。それだけが、あの少年と俺がここに存在した唯一の証拠。
あの少年は、大成するだろう。他の人よりもハンデはある。けどそんなハンデをものともしない、大きな力がある。あんなに楽しかった時間は今までになかった。恥ずかしがってあの才能を自分で隠すのは、人類にとっての大きな損失だろう。それはいいすぎか。
また自分の曲を書けなかった。ただ今日は、あの少年との思い出に浸り続けるだろう。自分の事なんて忘れ去って。名前も知らない、強く光る、無垢な星の事を考えて。
おしまい☆