SNSテキトー小説のすすめ
これは、ソーシャルメディアでフォローしてる人の何気ない「腹減ったけどまだ家が見えないな」とか当たり前の一言を勝手に文学的に捉えて、そこから勝手に話を広げていくという私が考えたゲームの副産物です。
お話として面白いか、よりもちゃんと整合性がとれてることと、一応小説と呼べるような起承転結と、誰の視点から書かれているのかは意識する事が大事です。もちろんおもしろければ尚よし。
今回はフランス在住のアヌ さんの「medium purpleかなぁ?」というひと言から勝手に作った読み物です。
【ミディアムパープルかな】
作 kNOB O'Hara
「ミディアムパープルかなぁ?」
ここはフランスの床屋。まあ名称としては「サロン」なので美容室と言いたい所なのだが正直言って「街の床屋さん」と言った方が外国人にも伝わるだろうか?
もう深夜なのだが、ここは0:00までは受け付けてるので忙しい人間に評判がいい。
しかしセンスはパリの最先端だ、とはお世辞にも言えない言えないような店だ。
そんな店の中で私はふと「髪の毛を染めたいな」と思い、さっきの言葉をポツリと言ったのだ。しかしこの床屋に髪を染めるサービスはない。そもそも私はファッションでは保守的なので髪を派手な色に染めたことがない。でもなぜか派手にしたいと思ったのだ。
それには訳がある。
まあハッキリ言ってしまうと恋人と別れたのだ。パリに遊びに行ったときに出会って恋に落ちたのだが、結果的にはこうなった。しかし彼女との日々はずっと忘れないだろう。それだけ想いがつよいので別れたとは言え未練は強い。
だからどうせ髪を切るなら大きく気持ちを変えるような派手な色にしたいと思ったのだ。
彼女はブロンドだった。しかしそれは地毛ではなくブリーチして染めてるそうだ。
本人いわく子供の頃は地毛がブロンドだったのだが思春期あたりに自然と今のブラウンに変わり初めてそれに気持ちが追いつかなかった、だから親に頼んでサロンに連れて行ってもらい以後、ずっとブロンドで通してる、との事だった。
「彼女と真逆の色にしたい!」
それなら、というかどうせならそのブロンド真逆の色にしてやりたい と思ったのだろう。そして黄金の逆の色はなにかと高校時代の美術の授業で見た色相環図を思い浮かべて、ああ仮に金色を黄色にするなら補色は紫色か、と思い浮かべたのだ。
しかし繰り返し言うがここの床屋にはそんなサービスはないし、なにより私はそんな派手髪で地元のアパートに戻る勇気はない。
フランスと言っても広いので地方になればファッションは基本的に地味な方が暮らしやすい。少なくとも私にはそうだ。
「まあ、いいか」とポツリと言い窓の外を眺める。地方とはいえ一応は中心部なのでまだ通りを車が走っている。雨は降っていないが最近は特に暑くてたまらない。そんな感じだ。
「はい、次の人!どうぞ!」
店主の婆さんが荒っぽく言う。まあ一応マダムと呼んではいるが私的には「婆さん」といった感じの人なのだ。よく言えばキップのいい女亭主。悪く言えば爺さんのような婆さん。
席に座ると店主は「今日はどんな髪型にする?いつもの?」と聞いてきた。しかし私はすぐに答えられずにいた。
5秒ぐらいか、間が空いた。
「あ、あのここは髪の毛を染めたりはしないんですよね?」質問というよりただのコミュニケーションを楽しむための言葉として使った。
「え?染めてるよ!何色でもいいよ!」
意外な言葉が返ってきた。正直信じられなかったしそもそも本気で紫にそめるぞと意気込んできたわけではないしなにより濃すぎる紫は本当は苦手な色なのだ。
しかし言い出した手前引っ込みがつかない。とりあえず価格を聞いた。価格を聞いて「あ、いまそんなにお金ないからやめます」と断るために。
「12€だよ!」やばい、思ったより安い、断れなくなってきたしなにより婆さんの目がギラギラしてきた。彼女の中の「創作意欲」に火をつけてしまったようだ。
しかたがないので流れに乗ることにした。私の人生はほとんどこんな感じで流されて生きてきた。まあ黒髪なのをブリーチして少し明るめの茶色にすれば地元でも悪目立ちはしないだろうと思いそれを伝えようとしたら婆さんが言葉を遮るように「紫色にしない?!」と言ってきた。私は悟った。この婆さんは押しが強い、もう断れない。
「え?!紫?!あ、あのでも私はあまり派手なのは苦手なので…」
もじもじ言う私に婆さんはどうもイライラしているようだ。
「じゃあ、内側だけ紫にしたらいいじゃない?最近はやってるらしいし!」
「あ、あのでもあんまり派手なのは苦手なので」
「はっきりしない子だねえ!まあお客様だからいいけどさあ!」
長年ここに通っているが相変わらず客を客とも思わない店主だ。
私は折衷案として「あ、でも薄い紫ぐらいなら、、」と答えた。
また婆さんの創作意欲に火がついたのが目を見てわかった。ああ、まただ。私は流されやすい。もうまかせよう。神様、どうか…
帰ったのは、もう夜中…というより夜更けだった。急いで部屋に隠れるように入った。灯りをつけて恐る恐る部屋にある姿見を見てみた。
「案外いいじゃん!」
もうその時の私の脳内には別れた女のことなどなかった。私は小躍りした。スカートがひらりと舞う。こんな髪色にしたのは生まれてはじめてだった。もう私はあのマダムを婆さんと思うのをやめた。マダムだ!私の「サロン」だ!ありがとう!
色がすぐに落ちないように髪は濡らさないようにしてシャワーを浴びて眠りについた。内容は覚えてはいないが楽しい夢を見た。
よし、今日は楽しい一日になるな!寝巻きのまま鏡の前に立った。
紫は落ちていた。普通に部分的に金髪になっているだけだ。
「あんのババア!二度といくか!金返せ!」といいながら、なぜか私は爆笑していた。そして30分間ぐらいだろうか?
号泣してしまった。自分でも訳がわからない。とうとう頭がおかしくなったのか?
そして腫れ上がった目を鏡で見ながら、まあいいかこれも人生だ、と独り言を言った。
とりあえず天気予報でまた暑いらしいがまた仕事にいく。同僚はこの部分金髪に驚くだろう。あのアヌ がカラー?!と。そう想像するとワクワクした
「本当はミディアムパープルなんだよ!」と心の中で言うだろう。
早く夏が終わればいいのにとおもったが案外わるくない夏だな。
─おしまい─