言葉を知りたい
言葉を知りたいと思った。
小学校の頃、クラスの中でヒエラルキーがはっきりと分かれていた。強い奴。弱い奴。面白い奴。面白くない奴。いじめる奴。いじめられる奴。
強くなきゃ生きていけない場所だった。
一瞬で人の急所を突ける、一番鋭利な言葉を知りたいと思った。
中学校の頃、転校をした。人見知り。中途半端な時期の転校生。すでに作られたコミュニティ。
友達の作り方もろくにわからず、会話も焦って詰まるばかりで。人との会話を克服するためには今しかないと思った。
人との距離を少しでも縮められる言葉を知りたいと思った。
現在、既に成人を超えた。未だに言葉はあまり知らない。語彙力がない、最近よく使われる言葉だ。例に漏れず私も持ち合わせていない。
ここ最近になって、ファンレターを書くことが増えた。筆を執ることが増えた今でも、言葉を知りたい。
あなたのここが好きです、この歌に感動しました、ずっと応援しています。
どうしたら優しく、温度のある、私の気持ちをただしく表す言葉を伝えられるか。いつも書いて消してを繰り返して、一生懸命伝えようとする。
言葉はナイフだ。と誰かが言った。私もかつて凶器として使おうとしたことがあった。一番傷つく言葉を刺してやりたい。私も傷ついたんだから、私にも誰かを刺す権利がある。
そう思っていたし、いつか浴びせた言葉が実際に誰かの致命傷になってしまったのかもしれない。
間違いを謝る機会をくれた人も、そんな機会もないままさよならしてしまった人もいる。
その言葉を知らなきゃ良かったなんて言わない。知っているからこそ、使ってはいけない言葉を知っている。
SNSが普及したことで、言葉はより軽く、人の元へ届くようになった。好きも嫌いも手軽に伝えられるようになった。
だからこそ、理解する必要がある。
自分の言葉を誰にどう伝えたいのか。気軽に伝えられるからこそ、その言葉を優しいものにも恐ろしいものにも変えられること。
私は好きな人が誰かの生死を取り上げることが悲しいんじゃなくて、言葉の恐ろしさに脅かされた覚えがあることが悲しい。SNSの使い方を見直してほしい、そう訴える誰かもまた、SNSを通してナイフの切っ先を向けられた覚えがあるということだ。
どれだけ先に楽しいことが待ち受けても、目の前の大きな大きな壁で塞がれてしまったら人間はいとも簡単に絶望できてしまうのだ。
言葉の怖さも素晴らしさも知っているからこそ知りたい。私の好きなものがどれだけ素敵か伝える言葉を。私の気持ちにぴったり誂えたような言葉を。
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