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企業の社会課題解決のカギは「事業と社会をつなぐもの」(小説) | 社長の葛藤【後編】
はじめに
本記事は、社会課題解決型ビジネスにおける新規事業創出の難しさを分かりやすくお伝えするために、当社のライターが実際に受託した業務をもとに制作したフィクションです。
前編、後編で構成されており、前編をまだお読みになっていない方はコチラから前編もご覧ください。
社会課題解決型ビジネスのパターンを見極める
社会課題解決型ビジネスを長期経営方針の柱に加え推進してきた社長のA氏。8年目を迎える中、起ち上げた事業の「選択と集中」を疎かにし、経営に影をおとしはじめた。そんなA氏と事業開発部の責任者B氏、そして7つの各事業担当者を前に紺野は、各事業を以下の4つのパターンに整理できると進言した。
当社の社会課題解決型ビジネスの4パターン
パターン1:社会課題解決の焦点、目標が定まっており、事業拡大への仮説が描けているが、まだ実現していない(一定期間で事業検証ができる目処はたっている)
パターン2:社会課題解決の焦点、目標にブレがあり、事業拡大への仮説が描けていない(一定期間での事業検証ができる目処が立っていない)
パターン3:社会課題解決の焦点、目標が定まっているが、事業拡大への仮説が描けておらず、役員会での納得が得られない、または反対意見が相当数でる(事業拡大可能性や自社でやる意義への疑問等)
パターン4:事業拡大の仮説が描けているが、社会課題解決の焦点、目標にはブレがある
対応方針(案)
そのうえで、上記4つのパターンそれぞれについて、以下の対応方針案を紺野は示した。
パターン1は事業拡大への仮説があり、事業検証できる目処も立っているため、このまま一定期間での目標と達成度の検証を進めながら継続か撤退の判断を示すことで、経営幹部を説得していく。
パターン2は、社会課題解決の焦点、目標が定まっていない中で、「走りながら進めていく」スタイルをとっているが、チームも日々の対応に追われるなかで徐々に目の前の収益追求ばかりになっている。社会課題解決型ビジネスの構築を目指すからには、すぐにでも3、4ヶ月程度の短期集中で企画からやり直し、そこで見出した戦略で進みたいかどうかで事業の前進/撤退判断を行う。
パターン3の、社会課題解決の焦点、目標が定められていながら事業拡大への仮説が描けていないという状況は、社会課題解決の焦点、目標が当社の強みと乖離していることを意味している。つまり、事業の焦点、目標を当社のもつ広義のアセットと結び付ける形で設定できていない状態だ。パターン2と同様に、3、4ヶ月程度の短期集中で企画からやり直し、そこで見出した事業方針をもって事業の前進/撤退判断を行うべきである。
パターン4は、社会課題解決型ビジネスとしてではなく、一般的な収益事業として独立させることが望ましい。ただし、事業担当者のモチベーションも高いため、社会課題解決との接点は引き続き探っていく。
4つのパターン以外にも、社会課題解決型ビジネスの推進における課題と対応策にはさまざまなパターンが存在するが、多くの場合、初期の企画期において社会的インパクト創出の仮説立てができていなかったり、目指す社会像の明確化やその実現に向けた自社の強みの分析が甘いままの見切り発車に起因することが多い。
また、企画期から実施期、成長期と進む中で、さまざまな課題・ニーズにより社会課題解決の焦点、目標、指標が歪曲し、(長期的な成長可能性を犠牲にしながら)短期的な収益獲得の追求に傾くことも少なくない。また、社内での継続判断、投資判断におけるコンセンサスのルールなどが整わないうちに、「走りながら考える」といいつつ拙速な意思決定をしてしまう企業は多い。
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社会課題解決型ビジネスの再設計
今回、紺野はB氏を中心に各事業担当者と、事業の企画期や成長期にかかわらず「インパクト・グロース・キャンパス」による再設計を行うこととした。
インパクト・グロース・キャンパス【IGC】
社会課題解決型ビジネスが、拡大に向けて常に立ち返るべき「軸」を示す。
そんな誰もが使えるフレームワークがあれば、社会的インパクトの出現・成功確率は飛躍的に上がるのではないだろうか。
社会課題解決型ビジネスは、見すえる先にある「社会」の捉え方が人によって千差万別であること、さらに関わる関係者の数が多いこと等により、企画期、実行期、成長期いずれにおいても事業の「軸」がブレやすい性質がある。特に、長期的な成長可能性を犠牲にした短期的な収益獲得施策に傾きやすい。
第三者視点を入れながら、正確なキャンパスの作成と運用を行うことで、ブレない軸と明確な目標の達成を目指し、常に社会課題解決における事業の高いパフォーマンスを生み出せる仕組みとして、トークンエクスプレス株式会社は「インパクト・グロース・キャンパス【IGC】」による作成・運用を行っている。
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事業の再編
再設計を終えて、事業は4つまで絞られた。
撤退判断の事業の中には、既に事業化していたものもあり、担当者から不満の声もあったが、IGCにより社会課題解決側面で期待される成果の達成が困難であることが明確になったこと、他の事業でノウハウ・実績が活かそうという方向が見いだせたことで、事業の再編がスムーズに行われた。
また、7つ目の新たな企画はというと、会社としては画期的な提案であったが、社会的インパクトの側面で期待される成果の可能性は低く、自社の強みを活かせる可能性も高くないということで却下となった。
できあがった「インパクト・グロース・キャンパス」をひろげ、改めて役員会で説明を行った。「それぞれの事業を企業という小さな枠にとらわれず、社会という大きな視野でみられたことで、この事業の意義がようやく理解できました。指標ができ目標があり戦略もあるならば会社としてバックアップしていく方向で、一丸となって取り組みましょう」という声が反対派の一部からも聞こえてきたくらい、一定の成果は得られた。
さらに事業担当者にも、短期的な収益性なのか社会課題解決なのかの狭間で揺れ、ブレることが多々あったが、IGCで俯瞰的に確認しながら「事業と社会をつなぐもの」にフォーカスをあてることで、リソース投下がしやすくなり飛躍的に事業が推進される手応えがあるとB氏は言う。
2025年はまだ、大々的に発表できる社会的インパクトの創出に至らないかもしれないが、そう遠くはない未来に社会課題解決と事業成長の両立を果たした事業として一躍、躍り出るだろうという期待で、社長Aはいっぱいとなった。
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終わりに
人は感情の生き物。この論理性が重視される現代においても、時に感情に流され過った判断を下してしまう。だからこそ、一歩引いてものごとを俯瞰してみる、迷ったときに常に立ち戻るべき「軸」を持っておくことが、企業経営、そして事業判断には必要とされます。社会における変化の創出に積極的に取り組む社会課題解決型ビジネスという、昨今関心を高めているビジネス・アプローチにおいてはなおさらです。
とはいえ、自社だけで閉じない社会課題解決型ビジネスにおいては、たくさんの情報や関係者からのインプット、フィードバックが入ってきて、日々必死で事業に向き合っているなかで知らず知らずのうちに「軸」がブレていってしまうもの。だからこそ、第三者である私たちが伴走することの価値があるのだと思います。
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