社会課題解決型ビジネスの社内コンセンサスがむずかしい理由(小説) | A社の変化点【後編】
はじめに、
本記事は、社会課題解決型ビジネスにおける社内コンセンサスの難しさを分かりやすくお伝えするために、当社のライターが実際に受託した業務をもとに制作したフィクションです。
前編、後編で構成されており、前編をまだお読みになっていない方はコチラから前編もご覧ください。
社会課題を整理し定義する
チームメンバーが加わる度に、プロジェクトが見つめる社会課題についての解釈は増えていく。今、目の前に広がる社会の見方は人それぞれ多様だ。そもそも私が社会課題と捉えていることも、隣の人にとっては社会課題であると限らないし、重い・軽い、強い・弱いもあるから温度差が生じる。
そこで紺野は、第一にB氏とともに、事業が対象とする社会課題の範囲の整理から着手した。社会の状況を捉えようとすると、aという事象があれば、それと関係してbという事象があり、さらにcという事象に繋がっているといった具合に、どこまでも無限に広がりを持っている。その中で、事業ではどの範囲の課題を解決しようとしているのかを整理するのだ。
それは、プロジェクトチームはどういった範囲で社会課題を捉えていて、その範囲の中でどのようなアクターがどのような状況におかれているのかを定義する作業だ。各アクターの状況・行動が他のアクターにどのように影響しているのかなど、定義した範囲での社会課題の構造を浮かび上がらせる。客観的データやいままでのプロジェクトチームの調査結果などを丁寧にまとめる作業だ。
例を挙げると、「社員の働きやすさ」と言った場合に、「社員」とはどういう立場の人々を指すのか、その社員の周囲にはどのような人々がいて、社員の働きやすさにどのような影響を与えているのか。プロジェクトでは誰からのどの影響に注目するのか。この場合の「働きやすさ」はどの視点で語っているのか、現状をどのように定義するのか、等を整理していく。焦点を絞る、と言ってもいいだろう。
こうした社会課題の範囲と構造の整理を行うことで、誰の、どんな変化を念頭に事業を考えているのかが徐々に明らかになっていく。これによって、A社がもつ経験、ノウハウが活きる対象も明確になっていく。
チームの変化
紺野は更に、それを第三者がみても一定の理解ができるビジュアルに落とし込み、曖昧な解釈になるものは一つ一つ「こうだ」と定義していった。
B氏は、チームメンバー5名とともに紺野がファシリテートするワークショップに参加してきた。B氏としては、これまでチームメンバーに何度も語ってきた話を、紺野の問いかけに応えつつ再度述べているだけのつもりだったが、そこに同席していたチームメンバーの反応は意外なものだった。
メンバーC:え、Bさんからこんな話、はじめて聞きました。
メンバーD:Bさん、いつも情熱的に壮大な話をするけど、聞くたびに違うこと言っていると感じていました。ビジョナリーってこういうことかなと(笑)。よく分からなかったので、とりあえず自分のタスクをこなしてましたが、Bさんに満足してもらえなくて。でも、ようやく全体像が見えて自分の役割が分かってきました。
メンバーE:わたしの同期で、このプロジェクトの受益者イメージにピッタリの奴が一人います。すぐにでも声を掛けてみます。
メンバーF:こういうビジョンなら、H社も同じような方向性ですよね。協業できるかもしれませんよね。
メンバーG:少し思うところがあるので、わたしの方でマーケティングの計画書をつくってみますよ。
一ヶ月後、新たなメンバーを一人加え2025年に向けたWBS(取り組みスケジュール)をつくりあげていた。2025年を飛躍の年にするために。
社会課題の整理のポイント
社会課題は、「地域の過疎化」「介護問題」といったテーマ毎にサイロ的に存在するものではなく、連綿とした社会の人々の営みの中で強弱をもって表出しているものと認識する
社会課題解決型ビジネスが対象とする社会課題を考える際には、「誰」の「どのような状況の変化」を起こしたいのかという視点を軸に考える
事業がターゲットとする「誰」「どのような変化」の周囲に、どのようなアクターのどのような行動の影響があるのかなど、なぜその対象について、望ましい変化が起きないのかを網羅的に考える
事業で認識する社会課題の範囲を定義し、そのなかでの課題の構造を整理する
事業検討の過程で得られた仮説と、実際のデータを大切に、丁寧に紡いでいく
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