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自粛後すべてが劇薬になりそう

緊急事態宣言が解除され、恐る恐る近所の焼き肉屋に入ったら、一口目に食べた牛タンがおいしすぎて卒倒した。
「私、今日食べた牛タンの味を今後忘れられないと思う」としみじみ語る。
それはシャバに出て初めてのメシのような、断食後の最初のごちそうのような、そんな味でした。どちらも経験したことがないからよく分からないけど。

アフターコロナとは言えないものの、先月に比べたら少しは世間が落ち着いてきた頃なので、ちょっとずつ日常に戻っていこうと思う。

今日は買ったばかりの自転車で、ナイトサイクリングをしてみた。
ニヤニヤしながら「治安の悪めなところに行きたいな」と言うと、夫が承諾くれた。

自転車を数十分走らせたところに、赤ちょうちん系の飲み屋の並ぶ街がある。
着いて早々、赤い「HOTEL」の古いフォントの下に、青いカタカナ3文字が並ぶラブホが出迎える。

人通りの多い場所に出ると、黒いマスクにハンズフリーで通話中の女子が「は?おめーのせいだろが!」と吐き捨てていた。
もうすごい。
在宅ワークになってここ数か月、ほぼ自宅とスーパーとドラッグストアにしか行ってないもんだから、「おめーのせいだろが!」と啖呵を切る女子が斬新すぎて動悸がする。

路地裏に入ると、飲み屋が開いているものの、遠慮がちに飲む人々がぽつりぽつりといるだけだった。
開けっ放しのドアから、距離を取った何組かのグループが粛々と酒を口に運んでいるのが見える。
一方で、1軒だけあった紫の看板のスナックからは、無遠慮にカラオケが漏れ聞こえていた。
微妙に音程が外れているのも相まって、空気の読めない感じが絶妙だった。
経験したことないけど、終戦直後はこんな感じだったのかな。

令和から一気に昭和になった。
すごい。頭の中にでっかく「ディストピア」の文字が浮かぶ。道行く人が着けてるマスクが全部ガスマスクだったらもっと最高。
中二思考全開で、ヤバい顔でチャリを漕ぎまくる。

牛タンも、ガラの悪い女子も、飲み屋街も、少し前まではなんてことなかったのに、いちいち過剰反応してしまう。
たった数か月の自粛生活で、刺激への耐性が極端に落ちている。
もはや全部劇薬だ。
この調子だと、自粛後初めての飲み会がどうなるか心配。


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