「スゲー!ヤベー!」で生きる幸せ

最近は本を読む際に、その作品だけでなく「文庫解説」を読むのが楽しみになっています。文庫解説とは、文庫本の最後に掲載されている作品に対する解説で、著者以外の人が書いている点が特徴のひとつです。

少し前のことですが、最近ハマっている作家「辻村深月さん」の著書『ぼくのメジャースプーン』を読みました。読み終えて少し時間を置いてから文庫解説を読ませていただいたところ、自分の気持ちを代弁してくれるかのような言葉がそこに書かれていました。この文庫解説を執筆したのは書評家の藤田香織さんで、藤田さんは本書を読み終えた後の感想を以下のように綴っています。

そして思った。この本を多くの人に読んで欲しい、と。
いいよ!ヤバいよ!泣きそうになる(「泣ける」とは言いたくない)よ!
辻村深月、本当に凄いよ!

藤田香織 / 辻村深月著「ぼくのメジャースプーン」文庫解説より

藤田さんご本人も認めているように、文庫解説は通常、作品の魅力を理路整然と語るものだと思いますが、今回のように「いいよ、ヤバいよ、だから読んでみて」という、全然プロっぽくない言葉が並ぶのは珍しいと感じました。ただ、その文章に、私は「そうそう、そうだよね」と共感し、さらに「プロも私のような素人も、特別な感動を覚えたときには同じように『スゲー!ヤベー!』になるんだな」っていう安心感のようなものを覚えたのも事実です。

もう10年近く前のことですが、私が初めてシンガーソングライター「井上昌己さん」のコンサートを観に行ったときも、まさにこんな感じでした。コンサートの開始直後から「スゲー!ヤベー!」が始まり、終了した後の帰り道でも、私は「スゲー!ヤベー!」みたいな言葉しか出てきませんでした。このコンサートをきっかけに、私は「井上昌己推し」になり、現在はコンサートに行けていませんが、ライブ配信を中心に昌己さんの音楽を楽しんでいます。

あのときから今に至るまで「井上昌己のライブにどうして感動したのか?」という問いについて、私は全く考えたことがありません。そして、「その問いの答えが自分の人生に必要か?」と聞かれれば、「ノー」かも知れない・・・。というのも、あのときの感動を純粋な気持ちでそのまま持ち続けていたい気がして、「余計な分析なんてしたくない」という思いがあるのです。

おそらく世の中の正解は、特に私のように自分の感情をアウトプットしている人間にとって、「自分の感情を整理して『なぜ?どうして?』について深く考えることが非常に大切だ」ということになると思います。また、「自分の好き」を因数分解して理解することで、それを「自分の生きやすさ」に繋げることも本当に重要だと思います。

しかし、心が動いた直後の「スゲー!ヤベー!」という純粋で馬鹿みたいな気持ちを大切にする生き方も悪くないかも知れない・・・それだって、未来の自分を幸せにしてくれるような気がしています。

「辻村深月さんの小説が大好き、だから生きているうちに辻村深月さんの小説を全て読破したい」

「井上昌己さんの音楽が大好き、だからこれからも昌己さんの音楽がある人生を送り続けたい」

そんな気持ちにさせてくれるものに出会えたことが、本当の幸せなのかもしれません。

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