#8勝率
―――そんなわけで、SPの彼女への対抗心に負けることが出来ずトレーニングに参加して強烈な筋肉痛をお見舞いされることになった私は、ベッドから起き上がることもできず、予定外の休暇を取る羽目になった。
「またご自分のトシも考えずに、あの子とやんちゃなさったんですって?」
這う這うの体で痛みに喘ぎながら出迎えて見れば、秘書室長が哀れな社長を慰問にやって来た。
「さぁ、こちらで筋肉痛が楽になるようにマッサージをして差し上げましょうね」
私のベッドに勝手に上がって肢体を横たえ猫なで声で言う彼女に、両腕を組んで反抗の意を示す。
「騙されないぞ、十か二十はサインをさせるつもりなんだろう」
シーツの上に投げ出された書類やタブレットの類を見れば「肉体的疲労の解消」の向こうには「頭脳労働」が待っているのが見え見えだ。
「まぁ! この私が、休暇中の社長に、そんなひどいことをするとお思いですか?」
「心外だ」とでも言いたげに軽くふくれっ面になった後、するりと黒いベルトが引き抜かれ、サテンのジャケットがはらりとはだける。
「そんなに警戒なさらないで。引っ掻いたりしませんから、ね?」
慈母のまなざしでそう告げる室長に勝てる者はそういない。
私は観念して両手を上に差し上げた。