#10 SP2
「車内でお待ちください」
わずかに目を細めて私にそう指示を出し、車外に出てから数分―――。
「お待たせしました」と戻って来た彼女は先ほどまでと出立がうって変わっていた。
いつも赤いリボンでまとめていた髪がほどけ、ジャケットはどこかへ行き、眼鏡も行方不明だった。
遠方からわが社の事後処理対応班が私の視界外でジタバタと身じろぐ「物体」に向けて駆けつけてくる光景が見える。
こういう事例が起こるたびに「自分は彼女たちの献身に相応しい主たり得ているか」と自問自答し、緩んでいた自覚に気合が入る。
状況を事後処理対応班に引き継いだ彼女をエスコートしながら車内に戻る。
「……ケガは?」
しきりに腕を隠すそぶりに気づき、負傷していないか確認しようと手を伸ばすと。
「問題ありません」
そう言って彼女は身を引いた。
「よし、じゃあ仕事を続けよう」
私は社長らしく威厳をもってそう宣言し、この後のスケジュールをこなす前に弊社御用達の眼鏡屋に向かうよう運転手に命じた。