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#13 勤労感謝の日

 「勤労感謝の日」というのは日本のこじつけ祭日の一つで本来の意味が風化しつつある祝日である。祝日法の根拠に正当な意義を要求する面々には悪いが、私はこんな日も嫌いじゃない。公的な法律にさえこういう曖昧な部分があるのが我が国・日本のいいところだろう。
 弊社はお休み大好きな社長(私)の好みを反映して、カレンダー赤い日はすべての社員の勤務を許可せず休養に専念することを是としている。
 なので、当然「勤労感謝の日」は全員休み、その上で、日々の精勤に感謝を表して全社員にポケットマネーで心ばかりの贈り物をする事に決めている。
 大きな部署には全員でつまめるような茶菓子を贈り、秘書室には各員に一つずつ。

「さぁて、今年は何かしらぁ」

 ……とは言っても、セクシーなランジェリーは顰蹙を買うのは経験済みなので、ネットショッピングに使えるギフトカードやチョコレートの詰め合わせと言った、ありきたりなものに限られるのだが。

「まぁ、今年は弊社の社章入り交通系カードですか! 考えましたねぇ」

 いそいそとリボンを外し、ギフトボックスの中から現れたカードを見て秘書室長はわざとらしく声を上げて見せた。

「……もちろん、社長は交通系カードもスマートフォン内蔵でピッとできることはご存知……ですわよね?」
「……もちろん知ってるさ。こういう物は物理化することに意義があってだな」
「そうですよねぇ、もちろん、ご存知、ですわよねぇ」

 うふふ、ははは……と、二人分の乾いた笑いが社長室に響いた。