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キッチンペーパーとおじいさん
神奈川県三浦半島の小さな駅前のスーパーでのこと。
感染症の影響でマスクや消毒液だけでなく、一時的にトイレットパーが店頭から消えた、その時に同時に消えたのがキッチンペーパー。
店頭には、キッチンペーパーはおひとりさまひとつだけという注意書き。
僕は食料品を買ってレジに並ぶと前には杖をついたおじいさん。
おじいさんが会計をしようとしていたら、レジ係の人が キッチンペーパーはおひとりさまひとつまでなんです と、諭していた。
係の人の言葉には棘はなく、こんな事態だから我慢してね、というニュアンスがあった。私も仕事としてルールは守らなきゃいけないの、といった感じで、じゃこれは返してきますね、と。
僕が察するに、お爺さんは杖をついて歩いてきた。どれくらいの距離なのかは分からないけれども、杖をつくような高齢者が外出するというだけでも苦労だろう。
じゃあ、そのキッチンペーパーは僕がひとつ貰いますよ、と声をかけた。
振り返るおじいさんは何ごとか不明の眼差しだった。
レジ係の人は、黙って僕のカゴにキッチンペーパーを入れようとしていた。
僕のキッチンペーパーはおじいさんが買ってくれるんです、と僕は返した。
ようやく意味が呑み込めたおじいさんと苦笑するレジ係の人。
おじいさん ありがとう、と僕は言った。
レジ係の人は、僕に向かってこう言った
ありがとう、返しにいくのが面倒だったの。
帰路なんとなく心は軽やかだった。
心を配るということは、自らを気分良くすること。
おじいさんに教えてもらった三浦半島のスーパーでのささいな出来事。
おじいさん ありがとう、と僕は呟いた。