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フィリップ・ラコート『夜の王たち』落下する王国の王様

1500人という収容人数を大幅に超えた5000人もの囚人が収監されている悪名高いラ・マカ刑務所にブチ込まれた青年のシェヘラザード体験記。旧国立公園内に建てられたこの監獄は、たった一人のボスによって治められているが、死にかけなので水面下で王位継承戦争が勃発しており、タイミング悪くやってきた青年は新たな"ローマン"を(無理矢理)任せられ、紅い月が出る夜の間ずっと物語を語る羽目になる。"語り"は広場で屈強な男たちに囲まれて行われ、一節語るごとに囚人たちは騒ぎ立て、合いの手を入れ、歌が入るなど全員が物語の参加者としてその場にいるのが面白い。"サソリの!"と言えばサソリのマネをして這い回り、お話で乱闘が起こればソフトな乱闘演技で対応し、お話の登場人物が倒れたら葬列が組まれ、勝手にBGMまで付けてくれるのだ。そうして語られる回想と空想が入り混じった物語の背景で再現映像が流れるんだが、これがちょっとだけ『落下の王国』っぽい。二人の魔術師が象とか炎とかを駆使して魔術バトルを繰り広げるシーンなんかは特に。

囚人たちのソフトな再現演技を再現映像で塗り潰したのは、ローマンの語る物語が刑務所という時間の止まった施設から遠く離れた都会で起こった、コートジボワール近代史に踏み込むからである。しかし、プロットが乱立しすぎていて折角の魅力的な要素を捌ききれておらず、"どれかの要素は引っかかってくれ"という監督の意図が見え隠れしてしまう中途半端さが目についた。つまり、乱立したプロットを強烈な世界観だけで押し切ろうとする感じの作品だが、黒人だらけの刑務所でだた一人の白人が肩に顔くらいある鳥を乗せたドニ・ラヴァンってのが最高で思考が飛んでいく。

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・作品データ

原題:La nuit des rois
上映時間:93分
監督:Philippe Lacôte
製作:2020年(カナダ, コートジボワール, フランス)

・評価:50点

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