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ロイ・アンダーソン『ホモ・サピエンスの涙』何が素晴らしい?全てだ

絶望的に作品数の少ないロイ・アンダーソン6年ぶりの最新作。前作『さよなら、人類』で2000年以降14年に渡った三部作を終え、きっちり周期のようなものを守って6年後に登場する律儀さには感動してしまう。しかし、すっとぼけたギャグの多かった"リビング・トリロジー"に比べると、本作品は笑いどころには欠けていて、逆にシリアスさと優しさが増している。『千夜一夜物語』に着想を得たという本作品は、画面外にいる女性(シェヘラザード)の優しい声が、互いに関係を持たない挿話の人物について解説を付けてくれる。恥を感じられない女性、地雷を踏んで足を失った男、戦争で息子を失った老夫婦、信仰を失った神父、銀行への信用を失った男、美貌を失いつつある女など、そのそれぞれが周囲から隔絶されており、会話もほとんど存在しない。世界は大小様々な不条理に満ちており、人々はそれぞれの尺度で苦しんでいる。だからこそ、泥沼の中で娘の靴紐を結ぶ父親も、シベリアへと歩み続ける捕虜たちも、目当ての女性を探し続ける男も、地下室で死を待つヒトラーも、全てが平均化されて語られるのだ。

終盤に来れば来るほど、その絶望は顕著になる。信仰を失った神父は、人を助ける人間であるが、決して助けられはしない。ビネット効果によって画面の周りが暗くなり、全ての人物が画面の中心で活動する中、彼は中心から外側へと(つまり暗い方へと)追いやられてしまう。不機嫌な医者も患者を放り出して闇へと消えていく。"自分の欲しいものが分からなくなった"と嘆く男は、やはり画面端にいる男に罵られる。こういった画面内の横断が活発になり、物語は陰惨を極めていく。

★以下、多少のネタバレを含む

しかし、アンダーソンはこの終わりなき苦難に希望も与えてくれる。熱力学第一法則、つまりエネルギー保存則について語り合う学生の挿話で、彼らは自身の持つ"エネルギー"(学問物理的な意味でもそうでなくても)は決して消えることなく変化を続け、再び出会うかもしれないと語り合う。それは魂のようなものかもしれないし、ただの言葉遊びなのかもしれないが、質素で陰惨な物語に光が差す瞬間のようにも思えた。

車に問題を抱えた男は、エンジンを眺めながらゆっくりをカメラを振り返る。我々も部外者ではない、人間関係がアンダーソン的な画面の退廃した色よりも希薄だった映画は、我々の世界の延長線上にあったのだ。"お前は助けに来るか?"と短い視線を交わした後、我々の行動はやはり画面によって遮られる。画面が無くても行っただろうか?そういうことだろうか。

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・作品データ

原題:Om det oändliga
上映時間:78分
監督:Roy Andersson
製作:2019年(スウェーデン)

・評価:100点

・ヴェネツィア国際映画祭2019 コンペ選出作品

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