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テレンス・マリック『名もなき生涯』無名の人々が善意を作る

一部では"マリックが戻ってきた!"と騒がれているが、最初の二つしか知らない人間からすれば戻ってきた感じはしない。寧ろ独り善がりな自分語りの手法を実話ものに適用した実に気味の悪い作品にしか見えなかった。短いカットが乱雑に並べられ、前後のショットの整合性などは度外視して流れだけを入念に考えたであろう編集は予告編のそれであり、あの予告編が3時間も続くのだ。印象的なショットを収めることを拒否するかのように、カメラは落ち着きなく動き続け、無意味な広角と無意味なクローズアップを繰り返す。しかし、無意味に見えたこれらの反復もマリックの中では意味があることは理解できる。90分で終わりそうな内容に180分掛けているのは、わざわざ180分の映画を作ることで、長尺映画に対する我々の疲弊と己の信念を曲げずに戦い抜くフランツの疲弊を重ね合わせているのだ。全体的に無駄なショット・無駄な動きが多いし、その割に編集でストーリーだけはスパスパ進んで時間だけが流れていくので、180分という時間以上に疲労感が溜まっていくのは、映像の暴力と権力者の暴力を重ね合わせているのかもしれない…これは流石に無理があるか。でも前者は本当だと思う。

意外だったのはフランツにも陰ながら支援者がいたことだろうか。それはラストのエリオットの言葉にも呼応し、フランツだけを神聖化して思考停止する映画ではないことを明示している。勿論、自身の信念を貫き通したフランツも、それを手紙で支え続けたファニも、ファニを支え続けた姉レジーも、我々には程遠い"高潔"な人物なのかもしれないが、その高潔な人物を陰ながら支えることだって出来るのだ、というのがマリックの思いなのかもしれない。ポピュリズムが台頭する現代への彼なりの反抗だろう。

あと、主人公夫婦に対して攻撃的な言葉はドイツ語無字幕で表現されていて、"聴く必要ない"言葉或いはドイツ語そのものがナチスを表現していたのに、最後の最後で夫婦がドイツ語で会話するのが納得できなかった。雰囲気で映画作ってるのか?

ちなみに、室内の音響がゴミ。これは"明日からアテレコで録り直します"と言われてもすぐに納得するレベル。今からでも遅くないぞ、マリックよ。

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・作品データ

原題:A Hidden Life
上映時間:174分
監督:Terrence Malick
公開:2019年12月13日(アメリカ)

・評価:40点

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