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Janisch Attila『Shadow on the Snow』それは雪上の走馬灯のごとく

共産主義政権崩壊後の1990年代、映画産業自体が急速に冷え込む中、同時期にタル・ベーラ、フェヘール・ジョルジが残した轍を辿り、その起源となるイェレシュ・アンドラーシュ『Little Valentino』に肉薄するまでに至った数少ない監督たちの一人が今回のヤニシュ・アッティラ(Janisch Attila)になる。彼はブダペスト舞台映画芸術大学に入学してファーブリ・ゾルタンの下で学び、本作品を含む長編三部作を発表した後、母校の講師として活動を続けている。本作品は偶然強盗事件に巻き込まれた男が、足元に転がってきた金をそのまま奪ってしまい、何もないハンガリーの田舎を幼い娘とともに逃げ回る話である。一般人男性がふとした出来事で大金を手にするロードムービーという基本的なプロットは『Little Valentino』そっくりだが、本作品では奪われた金を追う人物も登場するし、なんなら金を使うタイミングがない。同作では消費する手段を思いつかないことを皮肉っていたが、10年少し時間が経って共産政権が崩壊すると、消費すら出来なくなってしまったのだ。

余計な台詞や説明は尽く省かれているが、主演の男を演じるミロスワフ・バカの寡黙だが雄弁な目線/表情、そして彼の目や顔と同様に鋭利な表情を魅せる田舎の自然や廃墟の美しさには言葉以上の魅力がある。娘との逃避行なのに、彼女との絆みたいなものは一切語られないどころか、彼女や彼女の母親(つまり男の妻)との関係性も語られないので、"親権の関係で土日だけ会える父親がその土日に逃げる必要が出来たために娘も連れて行く"みたいなピクニック気分すらも感じられるのが興味深い。

タル・ベーラのフォロワーと言われると、確かに田舎の泥道とかの撮り方はそういう雰囲気あるが、モノクロなのとロケーションの問題な気がする。

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・作品データ

原題:Árnyék a havon
上映時間:72分
監督:Janisch Attila
製作:1992年(ハンガリー)

・評価:80点

本記事はマガジン「東欧映画」に掲載されています。こちらもよろしくお願い致します。


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