イジー・メンツェル『Capricious Summer』気まぐれな夏も、ワインを飲んで仲直り
三人のおじさんズが川辺で戯れる冒頭からメンツェル節が炸裂する長編三作目。キャリアで唯一カンヌ映画祭のコンペに選出された作品だが、例によって例の如く五月革命によって中止され、しかも次の作品が『つながれたヒバリ』なので余計に忘れられた作品とも言える。冒頭のおじさんズは、退役軍人/牧師/プール管理人(アントニン)であり、アントニンの妻カタリンを含めた四人はいつものように気怠い午後を満喫している。とは云え、自転車で通り過ぎようとした若い女性がおっさんの全裸をガン見してたらすっ転んで吹っ飛んだり、牧師とカタリンが川で自滅して船を沈めたりと、とても退屈には見えないどころか、どこか楽しそう。ど田舎の中途半端な偉い人ということで極めて暇人的な行動にあふれているのも、全体的に子供っぽさもなんとなくメンツェルっぽい。
そこへ魔術師を名乗る男が現れる。彼はいきなり長い棒を川に架けると、綱渡りの要領で川を越えてくる。彼が乗ってきた馬車は御者なしで当たり前のように通り過ぎていくし、そもそも綱渡り用ではなく綱渡り時のバランス用の棒だし、四人の前でいきなり逆立ちして自己紹介を始めるというド級の奇人であるが、誰もが"あぁ魔術師ね"という感じで受け入れる。変人なのは問題ではなく、彼が何をしに来たかが問題であるという、ここにメンツェル作品のヘンテコさというか、懐の深さが垣間見える気がする(まだ二本しか観てないので大きなことは言えないが)。その後、おじさんズは魔術師の美人アシスタントにガチ惚れし、あの手この手で攻め落とそうとデッドヒートを繰り広げる。アントニンなんか怖い妻のいる手前不倫は出来ないけど一緒に寝たいというアンビバレントな感情が爆発した結果、プールの更衣室に連れ込んで一晩中生足を揉み続けるという情けないのか健康的な変態なのか判断しかねることまでやってくれる。『厳重に監視された列車』でも若い女性秘書の尻にスタンプ押して停職になったり、童貞拗らせて爆死したりしてたのを思い出す。
魔術師とその美人アシスタントは毎夜毎夜街の広場で綱渡りのショーを披露し、おじさんズは美人アシスタント(の太ももとおっぱいを)、カタリンは魔術師を舐め回すように眺めている。やっている当人も含めて誰も楽しんでいる感じがしないという異様に静かな空気が漂っていて、実に滑稽だった。静かな温かさ。これが私の思うメンツェルなんすよ。合唱....
・作品データ
原題:Rozmarné léto
上映時間:74分
監督:Jiří Menzel
製作:1968年(チェコスロヴァキア)
・評価:70点
・カンヌ国際映画祭1968 コンペ選出作品
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